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培地学シリーズ14

 

 大川微生物培地研究所 所長 大川三郎

大川先生の略歴

https://www.facebook.com/ohkawa.saburo

 

 グラム陽性菌選択培地 ―コロンビアCNA羊血液寒天培地


はじめに

一般的に細菌は①グラム陽性菌②グラム陰性菌に分類される。これはグラム染色により、グラム陽性菌は紫色、グラム陰性菌は紅色に分類できる。グラム染色性は細菌の細胞壁の構造の違いによって生じ、グラム陽性菌は<厚いペプチドグルカン層+少量の脂質成分>に対して、グラム陰性菌は<薄いペプチドグルカン層+多量の脂質成分>の細胞壁である。細胞壁構造は生物学的(例:化学物質や抗生物質などに対する感受性の違い)に大きな違いを生じる。これらの性質の違いを利用してグラム陽性菌選択培地やグラム陰性菌選択培地が開発されてきた。

 

グラム陽性菌選択培地としてはPEA(フェニール・エチルアルコール)寒天培地、コロンビアCNA(コリスチン・ナリジキン酸)血液寒天培地、コロンビアPNA(ポリミキシンB・ナリジキン酸)EM(エスクリン・マンニット)・CN(コリスチン・ナリジキン酸)寒天培地、ROSE(ローズ)寒天培地、コロンビアCA(コリスチン・アズトレオナム)寒天培地が市販されて)いる。

これらの選択培地は選択剤としてもコリスチン、ナリジキン酸、ポリミキシンB、アズトレオナムの抗生物質やフェニール・エチルアルコールが用いられている。(ROSE培地はPEAとCNAの混合)これらの培地の中で最も使用されているコロンビアCNA血液寒天培地について紹介する。

 

 oh14.jpg

 

コロンビアCNA血液寒天培地(ColumbiaColistinNalidixic Acid agar

1966年、コロンビア大学のEllnerらにより基礎培地が開発された。この基礎培地にグラム陰性菌のみに抗菌作用を示す抗菌剤であるコリスチンとナリジキン酸を添加し、グラム陽性菌のみを発育させる選択培地である。さらにこの基礎培地に羊脱線維素血液を加えることにより、栄養要求の厳しい細菌の発育ができる。発育したコロニーは溶血性で区別が可能である。従って本培地は幅広いグラム陽性菌(β溶血レンサ球菌、リステリア菌などを含む)が発育する。

 

1.組成(精製水1000mlに対して)

カゼイン膵消化ペプトン 12g
獣肉ペプシンペプトン 5g
酵母エキス 3g
牛肉エキス 3g
トウモロコシデンプン 1g
塩化ナトリウム 5g
コリスチン 10mg
ナリジキン酸 15mg
羊脱線維素血液 50ml
寒天 13.5g

H 7.3±0.2

  

2.原理

カゼインペプトン・獣肉ペプトン・牛肉エキスの組み合わせによりグラム陽性菌を良好に発育させる。酵母エキス及びトウモロコシデンプンはエネルギー源となり、酵母エキスはビタミンの供給源になる。選択剤(コリスチン・ナリジキン酸)によりグラム陰性菌の多くは発育が抑制される。発育したグラム陽性菌は羊血液の溶血性が、β(完全溶血―コロニー周囲の透明帯を形成)α(不完全溶血―コロニー周囲が緑色帯)、γ溶血(非溶血―コロニー周囲無変化)に分類できる。但し、本培地は炭水化物が多く含有されているため、β溶血レンサ球菌がα溶血を示すことがあるので注意が必要である。

 

3.培地組成の役割

カゼイン膵消化ペプトン・獣肉ペプトン

細菌が発育するために必要な栄養素は①窒素源②炭素源である。細菌は蛋白質を分解する能力がないので、タンパク質をポリペプチド・ペプチドの型まで消化すると細菌が分解することができる。この蛋白を消化または分解した物質をペプトンと言う。ペプトンの種類としてはカゼインペプトン・大豆ペプトン・獣肉ペプトン、心筋ペプトン・ゼラチンペプトン等があるが、本培地では獣肉ペプトン(獣肉ペプシン消化)及びカゼインペプトン(カゼイン膵消化ペプトン)が用いられている。獣肉ペプトンは栄養学的(アミノ酸・ビタミン・炭水化物などの含有量)に優れているために選択性の強い培地には必須のペプトンである。本培カゼインペプトンが主に使用されている。カゼインペプトンは経済的に優れているので基礎ペプトンとして使用されております。

酵母エキス・牛肉エキス

酵母エキス・牛肉エキスは炭素・窒素源としてよりも,ビタミン核酸・アミノ酸・有機酸ミネラル等が豊富に含まれるために栄養要求の厳しい細菌の生育促進物質の目的で用いられている。一般的な細菌が発育するためには必須の栄養素ではない。一般的にはペプトンの補助栄養剤として使用する。エキス類を添加することで不足した栄養分を補うことで細菌の発育を促進することができる。また細菌の酵素活性を上げる作用(補酵素作用)はビタミン類に豊富に含まれているためである。

トウモロコシデンプン

分子式C6H10O5n炭水化物多糖類)で、多数のα-グルコース分子がグリコシド結合によって重合した天然高分子トウモロコシを原料として取り出したものを特にコーンスターチと呼ぶ。このコーンスターチは細菌が発育するために必要な炭素源として、同時にグラム陽性菌が発育する途中で産生された有害な代謝産物(不飽和脂肪酸など)を吸着するために添加されている。従って、これらの代謝物に影響を受ける細菌の発育を可能にする。

コリスチン

塩基性の陽イオン性界面活性剤であり、細胞質膜を損傷することにより殺菌的に作用する。グラム陰性菌に対して優れた抗菌作用を示し、緑膿菌、赤痢に対しても有効である。

1950年にライオン製薬の小山康夫らによって福島県の土壌中のバチルス菌が産生する物質から発見された。日本では1951年に硫酸コリスチンが1960年にコリスチンメタスルホン酸が販売された。その後副作用の頻度が高いことから日本では使用されなくなったが、2015年に多剤耐性を有するグラム陰性菌に対する抗生物質として見直され、希少疾病用医薬品として認定された。

ナリジキン酸

第一世代キノロンに分類されている。「ナリジキシン酸(ナリジキシンさん)」とも呼ばれる。主にグラム陰性菌に対して抗菌作用を示す。1962年にウィンスロップ・ラボラトリー社により開発(化学合成)された抗菌剤の一種である。ナリジクス酸は他の多くのキノロン系抗菌剤と同じように、DNAジャイレースを阻害することによって効果を発揮する。DNAジャイレースが阻害されると、染色体中のDNAは正常な二重らせん構造を取れず、DNAの複製と転写が阻害される。その結果、細菌はタンパク質を合成できなくなる。

塩化ナトリウム

菌体内外の浸透圧の維持するために用いられる。細菌の分裂においては細胞質の増大と細胞壁の合成が重要であるが培養の初期段階ではそのバランスが崩れて細胞壁合成が不完全な状態で細胞分裂がおこることがある。この時にできたプロトプラストは低張液では簡単に溶菌してしまうが、塩化ナトリウムを添加することで溶菌を防ぐことができる。

羊脱線維素血液

羊の血液からフィブリノーゲン(線維素)を取り除いた血液である。血液中のフィブリノーゲンは生体外で、フィブリンに変化することにより、凝固する。従って培地に添加する場合は脱線維素血液を用いる必要がある。採取した血液が凝固させないために、クエン酸ナトリウムなどの抗凝固剤を用いる方法があるが、クエン酸ナトリウムは細菌に対して抗菌作用があるために使用できない。細菌用培地に血液を利用する場合は物理的(ガラスのビーズ玉を入れた容器に採血した血液を加えて、ゆっくり振盪する。)な手段で脱線維素血液を作成する。

血液を添加する目的は①栄養要求の厳しい細菌の発育すること②培地中の細菌の発育に有害な物質を吸着することで広範囲の細菌が発育する。③レンサ球菌の溶血性鑑別(α、β、γ)が可能である。(ブドウ球菌、リステリア菌、腸球菌等の溶血性の鑑別にとっても重要な役割がある)

寒天

寒天は培地の固形化剤であります。原料は海藻であるテングサ、オゴノリです。培地用としてはオゴノリが利用されております。主成分はアガロースで糖が直鎖状につながっており、細菌には分解されにくい構造になっております。寒天の内部に水分子を内包しやすく、多量の水を吸収してスポンジ状の構造を形成します。水分を蓄えることができ、栄養分をその中に保持しておける。そのため、微生物の培地に適します。寒天培地を加熱していくと解ける温度を融点、また解けた寒天が固まる温度を凝固点といいますが、寒天は融点が85~93℃、凝固点が33~45℃です。これも寒天に混ぜる成分により変動します。良い培地か否かは寒天の品質で決まります。品質とは透明度、ゼリー強度、粘度、保水力が優れていることです。

 

4.使用法<直接分離培養>

①食品の10%乳剤を作成し、試料原液とする。

②試料原液0.1mlをコロンビアCNA寒天培地に接種し、コンラージする。

③35℃、24-48時間 5%CO2環境下で好気性培養する。

④発育コロニーを鑑別(溶血タイプ等)する。成書に従い同定試験を実施する。

  

5.培地の限界

1.グラム陽性菌であるが発育が悪いか、または発育できない菌種がある。

Corynebacterium jeikeium ,Arcanobacterium haemolyticum     

Erysipelothrix rhusiopathiae,Bacillus spp.一部のStapylococcus spp.は培地中の抗菌剤の影響を受けるために発育が抑制される。

2.一部のグラム陰性桿菌の発育が阻止できない。

抗菌剤であるナリジキン酸・ポリミキシンBに耐性のPseudomonas spp.Proteus spp.が発育することがある。特にProteus spp.が本培地に発育すると遊走現象を起こすためにオーバーグロスする。そのために試料中に存在しているグラム陽性菌が見逃される恐れがある。

3.真菌類の発育が抑制されない

酵母様真菌(カンジダ等)や糸状様真菌(アスペルギルス等)の真菌類は本培地に発育する。使用されている選択剤が真菌類には抗菌効果がないためである。

4.レンサ球菌の溶血性が成書記載の溶血性と異なることがある。

本培地は炭水化物の含有量が比較的多いために、β溶血レンサ球菌がα溶血を示すことがある、最終的な溶血性の性状試験は成書の記載された炭水化物の含有量が少ないトリプチケース・ソイ羊血液寒天培地で試験する必要がある。

 

参考文献; 

1)Ellner PD、Stoessel CJ , Am J Clin.Path 1966;45:502-504

2)Casman EP, Am,J.Clin.Path 1947;17:281-289

3)Sandra L.Dayton et al ,Appl.Microbiology,Feb.1974,:420-422

4)Murry P.R.,Baron J.M., 2003 manual of Clinical microbiology, 8th Ed.,

5)Estevez,1984,Lab.Med., 15;258

6)Lilley and Brewer.1953.J.Am.Pharm.Assoc;42:6

7)W Wood et al,J.Clin.Pathol.1993 Aug.:46(8):769-771

8)坂崎利一:新 細菌培地学講座 近代出版 1988

 

 

 

 

 

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