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培地学シリーズ15

 

 大川微生物培地研究所 所長 大川三郎

大川先生の略歴

https://www.facebook.com/ohkawa.saburo

 

 菌選択培地 ―ポテトデキストロース寒天培地


はじめに

真菌類は酵母様真菌と糸状様真菌に分類される。食品微生物学で取り扱われる糸状様真菌の種類は非常に多く、代表的なものとしては

①クラドスポリュゥム(Cladosporium)属 土壌、空気中に広く分布し、桃・ビワなどの果物、野菜、穀物、羊羹・カステラなどの菓子類、乳製品などで生育できる。また食品工場内の天井、壁に付着していることがある。

②アスペルギルス(Aspergillus)属 こうじカビと呼ばれ、土壌、農産物、加工食品、工業製品、空気中などに広く分布している。生菓子では羊羹、大福餅、饅頭、カステラなどで生育できる。

③ぺニシリユゥム(Penicillium)属 種々の食品の変質、腐敗に関与する代表的なカビである。アオカビと呼ばれ、自然界に分布し、野菜、果実、貯蔵米、餅、パン、生菓子、乳製品などの食品で生育し、冷蔵庫、食品工場の空気中に広く分布している。

④カテヌラリア(Catenularia)属 培地上の発育コロニー色がチョコレート色が特徴で、好浸透圧性のカビである。最中(もなか)・羊羹・餅菓子等で生育できる。発育速度が他と比べ遅い。

⑤ムコール(Mucor)属 毛カビと呼ばれ、毛髪状に発育する。土壌中に存在し、野菜・果実で生育していることが多い。また、餅、パン、乳製品、冷蔵肉などの多水分食品で発育しやすい。水分が多いと生育が速い。また低温での発育が可能である。

⑥リゾップス(Rhizopus)属 クモの巣カビと呼ばれ、白い綿状集落を形成する。ムコールと同じく、発育が速い。野菜、果実、パン、麺、肉、乳製品など、水分の多い食品で生育する。

真菌の選択培地としてはポテトデキストロース寒天培(PDA)、麦芽エキス寒天培地、コーーンミール寒天培地、ツァペックドックス寒天培地、サブロー寒天培地、ローズベンガル・クロラムフェニコール寒天培地、ジクロラン・グリセロール寒天培地等がある。これらの選択培地は選択剤としてもクロラムフェニコール・ゲンタマイシン・クロロテトラサイクリン等の抗菌物質や高濃度のブドウ糖・ショ糖、グリセロール等による水分活性を利用、同時に好乾性真菌の培養にとっても重要な成分として用いられる。

これらの培地の中で食品微生物で、最も使用されているポテトデキストロース寒天培地について紹介する。

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ポテトデキストロース血液寒天培地(Potato Dextrose Agar Medium

ポテトデキストロース寒天培地は食品および乳製品・日常品・化粧品の酵母様真菌、糸状様真菌の分離培養や平板計測定用として米国・EU・日本等で推奨されている培地である。特に本培地はブドウ糖が20g/Lであることある。それは40g/Lでは発育阻害を受ける一部の酵母様真菌でも本培地では良好に発育する。従って酵母様真菌、糸状様真菌の両真菌の試験用培地として使用できる。また医真菌分野では胞子形成の促進(スライド培養)、皮膚糸状菌(Trichophyton)の色素産生による鑑別培地として使用する。

 

1.組成(精製水1000mlに対して)

 

ジャガイモ浸出物 4g
ブドウ糖 20g
クロラムフェニコール 100mg
寒天 15g

H 5.6±0.2


2.原理

基礎培地はジャガイモ浸出液とブドウ糖及び寒天という非常に簡素な組成であるが、真菌の旺盛な発育を支持可能である。ジャガイモ浸出液にはデンプン・アミノ酸・ビタミン(ビタミンC・葉酸・パントテン酸等)が豊富に含まれ、これに真菌類の好物であるブドウ糖を加えた2つの成分で酵母様真菌や糸状様真菌の発育のための栄養素としては充分である。一般細菌の発育至適pHが6-7であるが、真菌の発育至適pHは4-6であるために、PDA培地のpHを5.6に設定されている。(一般細菌の発育を抑制すると同時に真菌類の発育至適pHでもある。)さらに一般細菌の発育阻止のために広域抗生物質であるクロラムフェニコ―ルが用いられている。

 

3.培地組成の役割

ジャガイモ浸出物

ジャガイモ浸出液(1L作成する場合)の作成法は、皮をむいたジャガイモ200gを蒸留水1Lで20分間煮沸後、ガーゼで沪過し、ジャガイモ浸出液を作成する。培地に使用されている浸出物は,作成された浸出液を乾燥させ、粉末にしたものである。真菌類が発育するために必要な栄養素は①窒素源炭素源である。ジャガイモ浸出物には炭素源であるデンプンが、窒素源としてアミノ酸・硫酸塩やアンモニアが、さらに真菌類の発育促進剤となるビタミンが豊富にふくまれる。<ジャガイモの成分としては100g中にはタンパク質1.6g、脂質0.1g、炭水化物17.6g、さらにビタミン類はビタミンB1、ビタミンB16、ナイアシン、葉酸、パントテン酸、ビタミンCが含まれている。>ジャガイモ中に含まれているデンプンは加熱により分解されやすいビタミンを保護することできるために、加熱によってもビタミン類は分解されない。ジャガイモデンプンは分子式C6H10O5)の炭水化物多糖類)で、多数のα-グルコース分子がグリコシド結合によって重合した天然高分子である。

ブドウ糖

すべての真菌は、有機物が栄養源となっている従属栄養性の生物である。真菌が主に炭素源とするものは、食物に由来するさまざまな糖質である。そのなかでもブドウ糖、ショ糖、マルトースなどが主に真菌の炭素源となる。

クロラムフェニコール

クロラムフェニコールはStreptomyces venezuelaから得られた抗生物質である。1947年にパーク・ディビス社(ファイザー社)によって発見され、広範囲な抗菌スペクトルを持ち、グラム陽性・陰性菌に効果を示す。細菌のリボゾームの50Sサブユニットに結合することにより、たんぱく質合成を抑制する。試験材料中に存在する一般細菌の発育を抑制する目的で添加されている。

寒天

寒天は培地の固形化剤であります。原料は海藻であるテングサ、オゴノリです。培地用としてはオゴノリが利用されております。主成分はアガロースで糖が直鎖状につながっており、細菌には分解されにくい構造になっております。寒天の内部に水分子を内包しやすく、多量の水を吸収してスポンジ状の構造を形成します。水分を蓄えることができ、栄養分をその中に保持しておける。そのため、微生物の培地に適します。寒天培地を加熱していくと解ける温度を融点、また解けた寒天が固まる温度を凝固点といいますが、寒天は融点が85~93℃、凝固点が33~45℃です。これも寒天に混ぜる成分により変動します。良い培地か否かは寒天の品質で決まります。品質とは透明度、ゼリー強度、粘度、保水力が優れていることです。

 

4.使用法<希釈平板法>

①食品の10%乳剤を作成し、試料原液とする。

②試料原液0.1mlをPDA寒天培地(pH3.5±0.1)に均等に接種する。

③25℃、10日間 好気性培養する。

④発育コロニーを鑑別する。成書に従い同定試験を実施する。

 

5.培地の限界

1)好乾性糸状様真菌は発育できない。

和菓子などのような水分活性が低い食品に発生しやすい好乾性糸状様真菌は本培地では発育できない。好乾性糸状菌とは、食品の水分活性が0.8以下でも発育可能なAsperillus属の一部(A.penicilloides等)、Eurotium属の一部(E.halophiticum等)、Wallemia属、Chrysosporium属、Xeromyces属、Basipelospora属がある。これらの糸状菌はポテトデキストロース寒天培地では発育できない。したがってこれらの糸状菌を発育させるために水分活性の低いジクロラン・グリセリン18寒天培地や25%グリセロール・硝酸塩寒天培地などの好乾性真菌用培地を使用する。

2)一部のグラム陰性桿菌の発育が阻止できない。

抗菌剤であるクロラムフェニコール耐性のブドウ糖非発酵性グラム陰性桿菌(Pseudomonas spp等)が発育する。本培地に発育すると目的の真菌類よりも早く発育し、しかも大きなコロニーを形成するため、オーバーグロスする。そのために試料中に存在している真菌類が見逃される。この問題を解決するためにゲンタマイシンを添加した培地を使用する。

3)アスペルギルス属の鑑別のための色素産生試験には使用できない、

本培地は組成上から真菌類の色素産生能力はある。しかし、アスペルギルスの色素産生用培地として使用してはいけない。成書によると色素産生試験用培地としてはツァペック・ドックス寒天培地を用いる。しかし、みず虫の原因真菌であるトリコフィートンの色素鑑別用培地として用いられる。


参考文献; 

1)     宇田川俊一:食品のカビ汚染と危害、幸書房、東京、2004

2)     久米田裕子:日本食品微生物学会誌、25(2).60-69 (2008)

3)     Cariler Gwendoline(1948) Brit.J.Derm..Syph.60,61-63

4)     Hodges R.S.(1928) Arch.Derm.Syph.New Yolk,. 18,852

5)     Murray et al (1993) CTFA microbiology Guideline ,Washington,D.C

6)     Raper KB,Fennel(1965) DI:TheGenusAspergillus.TheWilliams&Wilkinson ,

7)     坂崎利一:新 細菌培地学講座 近代出版 1988

8)     Mac Faddin.J.F.1985 Media for isolation-cultivation of medical bacteria,vol.1 William&Wilkins,

 

 

 

 

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