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培地学シリーズ27

 

 大川微生物培地研究所 所長 大川三郎

大川先生の略歴

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Moraxella osloensis 選択培地

 はじめに

モラクセラ属はグラム陰性の球菌で連鎖状、双球状の形態で、運動性は示さない。発育環境は好気性である。オキシダーゼ、カタラーゼ活性を有している。Moraxella属にはM.atlantae,M.bovis,M.canis,M.caprae,M.catarrhalis,M.osloensisなど12菌種に分類されている。このうちM.osloensis洗濯物の部屋干しの際に発生する悪臭の原因菌である。本菌は増殖時に悪臭を発生する4 methyl-3-hexenoic acid(4-メチルー3-ヘキセン酸)を産生する。M.osloensisはヒトの上気道、皮膚、泌尿器の常在細菌であり、家庭内の環境中にも多く存在している。本菌は偏性好気性、至適発育温度は33-37℃で培地上での発育コロニーは寒天中にめり込んだ特徴のあるコロニーを形成する。また、他のモラクセラ属の一部の菌種では認められる色素産生能を有しない。モラクセラ属の検出培地としては、一般的には血液寒天培地、チョコレート寒天培地が使用される。M.catarrhalisについては選択培地が使用されるケースがあるが、他のモラクセラ菌種を目的にした選択培地は、使用されるケースはまれであるが、今回はM.osloensis選択培地であるモラクセラ・オスロエンシス寒天培地について紹介する。

 

Moraxella osloensis 選択培地

 

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モラクセラ・オスロエンシス寒天培地(Moraxella osloensis selective  agar)

1.組成(精製水1000mlに対して)

 

カゼイン膵消化ペプトン  14.5.g
大豆パパイン消化ペプトン 0.5g
塩化ナトリウム 5.0g
アセタゾラミド  10.0mg
バンコマイシン  10.0mg
ゲンタマイシン 5.0mg
アンホテリシンB 2.0mg
寒天  15.0g

 pH 7.3±0.2

 

2.原理

 

基礎培地としてカゼインペプトン、大豆ペプトンのみの単純な栄養のみで構成されている。モラクセラの多くの菌種は発育のために、リッチな栄養素が必要であるが、M.osloensisは単純な栄養素のみで良好に発育できる。(栄養的な選択性をもつ)

環境中に存在する他の細菌の発育を抑制する目的でゲンタマイシン、バンコマイシン、アセタゾラミドなどの選択物質が用いられている。これらの選択剤により、グラム陽性菌、グラム陰性桿菌、真菌類、ナイセリア属菌等は発育が抑制される。本培地で発育できる細菌はM.osloensisと一部のMoraxella sp.のみとなる。本菌は無色、特徴のある平坦な培地に埋め込まれたコロニーを形成するので鑑別が容易である。

 

3.組成

カゼイン膵消化ペプトン

細菌が発育するために必要な栄養素は窒素源、炭素源である。細菌は自力でタンパク質を分解する能力がないので、培地に使用する場合はポリペプチド、ペプチドまで分解したペプトンを使用する。(タンパク質を酵素、酸などにより消化、分解した物質をペプトンと言う。)牛乳のカゼインをパンクレアチンで消化したペプトンをカゼイン消化ペプトンである。

カゼインは他のたんぱく源と比較すると安価に使用できるため、培地の基礎ペプトンとして使用される。

大豆パパイン消化ペプトン

大豆ペプトンは大豆をパパインも使用して消化したペプトンである。植物性炭水化物やビタミンを豊富に含んでいる。カゼインペプトンの補助栄養剤として用いられ、カゼインペプトンの不足している栄養素を補うことで細菌のコロニーの大きさや発育速さなどを促進する作用を有する。

塩化ナトリウム

細菌の菌体内外の浸透圧を維持するために使用される。細胞の分裂において細胞膜の増大と細胞壁の合成が重要であるが、培養初期段階ではそのバランスが崩れて細胞壁合成が不完全な状態で細胞分裂がおこることがある。このときにできたプロトプラストは低張液では簡単に崩壊してしまうが、塩化ナトリウムを添加するとこの溶菌を防ぐことができる。

アセタゾラミド

アセタゾラミドは炭酸脱水素酵素阻害剤に分類される非静菌スルホンアミド剤である。炭酸脱水素酵素の阻害は、特定の流体の分泌を減らし、腎臓の血流や糸球体沪過を減らす。また緑内障の治療薬として用いられます。本剤は上記内容とは別として、ヒトや環境中に存在するナイセリア属菌の発育を阻止します。

ゲンタマイシン

アミノ配当体系の抗生物質であり、緑膿菌などのブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌や腸内細菌などのグラム陰性桿菌、一部のグラム陽性球菌に抗菌効果がある。試験材料中のこれらの細菌の発育を抑制する。

バンコマイシン

細菌の細胞壁合成酵素の基質であるD-アラニルーDアラニンに結合して細胞壁合成酵素を阻害し、細菌の増殖を阻止する抗生物質である。抗菌スペクトルはグラム陽性菌のみであるが、とくにブドウ球菌に対する抗菌効果が強い。試験材料中のグラム陽性菌の発育を阻止する目的で添加されている。

アンホテリシンB

ポリエン系抗生物質であり、真菌の細胞膜のエルゴステロールと結合し、細胞膜に小孔を作ることにより殺菌的に作用する。アスペルギルス、カンジダ属などを含む幅広い真菌に対して効果を示す。試験材料中の真菌類の発育を阻止する目的で添加されている。

寒天

寒天は培地の固形剤である。原料は海藻であるテングサ、オゴノリである。細菌検出用培地としては、このうち安価であるオゴノリを原料として製造された寒天が使用される。主成分はアガロースで糖が直鎖状につながっているために、細菌の産生する酵素では分解されない構造になっている。寒天内部に水分子を内包しやすく、多量の水分を吸収してスポンジ状構造を形成する。水分と栄養素も保持できるために細菌用培地の固形剤として優れている。

 

4.使用法

①  試験材料を適切に希釈して試験希釈液を作成する。 

②  試験液10μlを採取し、Moraxella osoloensis 寒天培地に画線塗抹する。

③  35℃、18-24時間、好気培養する。(炭酸ガス培養は厳禁)

④  特徴のあるコロニーを選択し、成書に従い同定する。

 

5.培地の限界

① M.osloensis以外のモラクセラ菌の細菌が発育しないことがある

発育栄養要求性の高いモラクセラ属菌は発育できない。(M.catarrhalisの培養には不適である。

② M.osoloensis以外の細菌が発育することがある。

コロニーは小さいがḾ.osolensis以外のモラクセラ属菌が発育する。またゲンタマイシンに耐性のグラム陰性桿菌が存在している場合は大きなコロニーを形成する。発育したコロニーは、成書に従い同定試験をしなければならない。

③ 5%炭酸ガス培養では、ナイセリア属菌が発育する。

アセトソラミドは5%炭酸ガス環境では活性が弱くなるために、ナイセリア属菌の発育が抑制されない。

 

参考文献

1) http://www.kao.com/jp/corp_news/2011/20110526_001.html

2)   http://www.kao.com/jp/corp_news/2011/pdf/20110526_001_01.pdf

3)      坂崎利一:新細菌培地学講座 近代出版 1988

4)     Ahmad, F.et.al1985.J.Hosp. Infect. 6:71-74.

5)      Axelsson, A., 1973. Laryngoscope 83:2003-2011.

6)     Berger, U., 1971.  Arch. Hyg. 154:540-544.

7)     Brorson, J. E., 1972 J. Infect. Dis. 8:151-155.