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培地学シリーズ30

 

 大川微生物培地研究所 所長 大川三郎

大川先生の略歴

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グラム陰性桿菌選択培地 変法ドリガルスキー乳糖寒天培地


はじめに

Modified Drigalski Lactose Agar(変法ドリガルスキー寒天培地) はマッコンキ―寒天培地、デソキシコレート寒天培地、DHL寒天培地等と同じグラム陰性桿菌選択培地である。ドリガルスキー寒天培地は1902年ドイツの微生物学者であるV.Drigalskiによって開発された病原菌分離用培地である。(当時はサルモネラ・赤痢菌の検出用)欧米では、このドリガルスキー寒天培地は一般的に使用されていない。しかし、日本では一般的に使用されている。(BTB乳糖寒天培地として)。このBTB乳糖寒天培地は、ブドウ球菌、腸球菌などのグラム陽性菌も発育するためにグラム陰性桿菌の選択培地として分類されていない。日本では本培地を化粧品の微生物検査の黄色ブドウ球菌の検出用培地として、また、ヒト感染症の細菌検査の分野では、最もポピュラーな培地として用いられている。これに対して、欧米では、ドリガルスキー寒天培地にグラム陽性菌の選択剤を添加した(グラム陰性桿菌選択培地)変法ドリガルスキー乳糖寒天培地として使用されている。

 

変法ドリガルスキー乳糖寒天培地(Modified Drigalski Lactose Agar


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1.原理

基礎培地組成としてはカゼインペプトン・動物組織ペプトンのみでなく、牛肉エキス・酵母エキスで構成されている。デソソキシコレートやクリスタル紫などの選択剤により発育が抑制されるために栄養補助剤の添加がないと、コロニーの大きさ・発育の早さ等において満足できる結果が得られない。グラム陽性菌の発育を抑制する目的でデソキシコレート・クリスタル紫が添加されている。発育したコロニーを鑑別する目的で乳糖・BTBが加えられ、乳糖分解菌は黄色、乳糖非分解菌は青色コロニーを形成する。

 

2.組成(精製水1000mlに対して)

                                                      

カゼイン膵消化ペプトン 6g
動物組織パパイン消化ペプトン 4g
牛肉エキス 3g
酵母エキス   3g
デオキシコール酸ナトリウム 1.0g
乳糖 15g
クリスタル紫 0.005g
ブロムチモール青  0.08g
寒天  11.0g

 

pH7.4±0.2

 

3.組成の役割

獣肉ペプトン・カゼイン膵消化ペプトン

細菌が発育するために必須の栄養素は①窒素源②炭素源である。細菌は蛋白分解酵素をもたないために、タンパク質をポリペプチドやペプチドまで分解しないと栄養素として利用できない。獣肉ペプトンは他のペプトンに比べてトリプトファンに乏しいが含硫アミノ酸が多い。またビタミンや発育因子が多いことが特徴である。カゼイン膵消化ペプトンはカゼインを豚の膵臓のパンクレアチンを用いて消化したペプトンである。原料が安価なカゼインを使用して作成されるために経済的に優れているために基礎ペプトンとして多くの培地に用いられている。

牛肉エキス

牛肉エキスは炭素・窒素源としてよりも,ビタミン・核酸・アミノ酸・有機酸・ミネラル等が豊富に含まれるために生育促進物質を補う目的で用いられている。牛肉エキスは、肉を水で浸出したものを(加熱して)濃縮したものである.濃縮時に熱による成分の変性が起こっており,高濃度で使用すると微生物の生育を阻害することがあるので,通常0.3–0.5%程度の濃度で使用される。

酵母エキス

一般的な細菌が発育するために必須の栄養素ではない。ペプトンの補助栄養剤として使用する。エキス類は不足した栄養分を補うことで細菌の発育を促進する。細菌の酵素作用を促進する作用(補酵素として)はビタミン類が豊富に含まれているためである。さらにビタミン等により酵素活性の促進作用により発育を高めることが可能となる。選択剤の含まれた培地では発育補助物質として利用される。

デオキシコール酸ナトリウム

デオキシコール酸ナトリウムは胆汁酸塩である。培地では選択剤として、同時に鞭毛の働きが強い細菌(プロテウスなど)の遊走阻止剤として利用される。グラム陽性菌はペプチドグリカン層が厚く、細胞外膜がないためにデソキシコレートにより溶菌されるために発育できない。グラム陰性菌は細胞外膜が厚いために溶菌されないために発育できる。

乳糖

培地中に含まれる乳糖は①エネルギー獲得のための炭素源として②炭水化物の分解による菌種の鑑別の目的である。本培地では乳糖分解菌と乳糖非分解菌を鑑別することが目的である。例としては、サルモネラは乳糖、白糖ともに非分解であるのに対して他の腸内細菌の多くはいずれかの糖または両方の糖を分解するために両者を区別できる。

クリスタル紫

トリフェニールメタ系の色素の一種であり、ベーシックバイオレット3、塩化メチルロザリニンともいう。クリスタル紫は染色液としてもよく用いられる。また殺菌消毒効果もある発育阻止剤や褥瘡の治療にも用いられていたことがある。グラム陽性菌の発育を阻止する目的で添加されている。とくにブドウ球菌の発育阻止作用はとくに強い。

ブロムチモール・ブルー(BTB

pH指示薬であり、培地のpH6.0以下では黄色、pH7.6以上では青色に変色する。即ち乳糖、白糖などの炭水化物が分解されると培地pHは約4.0以下になるために黄色に変色する。逆に炭水化物が分解されない場合はペプトン分解によるアルカリ化のみのために青色に変色する。

寒天

寒天は培地の固形化剤である。原料は海藻であるテングサ、オゴノリである。培地用としてはオゴノリが利用されている。主成分はアガロースで糖が直鎖状につながっており、細菌には分解されにくい構造になっている。寒天の内部に水分子を内包しやすく、多量の水を吸収してスポンジ状の構造を形成する。水分を蓄えることができ、栄養分をその中に保持できる。そのため、微生物の培地に適する。寒天培地を加熱していくと解ける温度を融点、また解けた寒天が固まる温度を凝固点と言う。寒天は融点が85~93℃、凝固点が33~45℃です。これも寒天に混ぜる成分により変動する。良い培地か否かは寒天の品質で決まる。品質とは透明度、ゼリー強度、粘度、保水力が優れていることである。

4.試験法

①食品の10%乳剤を10 倍希釈する。

②試料の 10μl を変法ドリガルスキー寒天培地上に滴下し、白金耳で画線塗抹する。

③37℃で24時間培養する。

④発育コロニーを観察し、異なったコロニー性状の細菌の同定試験を実施する。

5.培地の限界

① グラム陰性桿菌以外の細菌が発育する。

酵母様真菌や糸状様真菌はデソキシコール酸ナトリウム・クリスタル紫等の選択剤では発育が抑制されない。

② プロテウス属菌が遊走コロニーを形成することがある。

デソキシコール酸ナトリウムが1.0g/Lと少量のであるためにプロテウス等の鞭毛活動が活発な細菌は本培地では孤立コロニーを形成することができず、遊走コロニーを形成することがある。

③ 発育コロニーの周囲のコロニーが乳糖分解性の鑑別が困難であるケースがある。

乳糖分解による培地pHの変化により培地の黄変の範囲が他の培地に比べて広いために、この影響により、この細菌の発育した周囲のコロニーの鑑別が困難になる。

 

文献

1)  V.Drigalski etal.  1902 Hyg.Infektion.  39.298.  

2)  阪崎利一: 新細菌培地学講座 近代出版  (1988)

3)  Dupeyron C.M etal  1973 .J.Hyg.Camb. 71.481-483

4)  Michaela R. etal.  1977 J.clin. Microbiol.   10.343-347

5)  Dupeyron, C.M,  1986. J. Clin. Pathol. 39: 208-11.