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培地学シリーズ5

 

 大川微生物培地研究所 所長 大川三郎

大川先生の略歴

https://www.facebook.com/ohkawa.saburo

 

はじめに

 腸炎ビブリオ検出用培地としてアルカリペプトン水培地、モンスール培地等の選択増菌培地、TCBS寒天培地、ビブリオ寒天培地、Taurocholate Tellurite Gelatin Agar(TTGA)寒天培地、VPagar ,VPSA agar,Vibrio mediumクロムアガービブリオ寒天培地、X-VP寒天培地、ESビブリオ寒天培地等の選択分離培地、さらに自動検査システム用としてDOXビブリオ培地、DOX腸炎ビブリオ培地がある。

我が国では腸炎ビブリオ選択培地としてTCBS寒天培地、クロムアガービブリオ寒天培地等の酵素基質を用いた培地が使用されている。今回はTCBS寒天培地について紹介する。


TCBS寒天培地(Thiosulfate citrate bile salts sucrose agar


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1.特徴

TCBS寒天培地は小林、榎本、坂崎、桑原らにより開発されたコレラ菌、腸炎ビブリオ及びその他のビブリオの選択分離培地である。本培地の特徴は塩化ナトリウムの濃度と高いpHである。

ビブリオ属菌は好塩性であるため、発育するために塩化ナトリウムが必要である。(塩化ナトリウムが含有していない培地では発育することができない。)そのため、本培地では1.0g/Lが含まれている。

ビブリオ属の発育可能pH域は5.6-9.6であり、至適pHは8.0である。しかし、その他多くの細菌の至適pHはpH6.8-7.6あり、至適pH以外では増殖が抑制される。この培地pHが8.6となっているため、ブブリオ属以外の細菌の発育が抑制される。

さらに選択剤であるコール酸ナトリウム(胆汁酸塩)はクエン酸ナトリウムの共存下ではpH7.0ではビブリオ属を含めて多くの細菌(ビブリオを含めて)に対して発育抑制作用を示すが、pH8.6の培地ではビブリオ以外の多くの細菌の発育は阻止されるが、ビブリオの発育抑制は受けない。

さらに白糖分解菌と白糖非分解菌をコロニーに色で区別ができる。即ち腸炎ビブリオ(白糖非分解)は緑色、白糖分解菌(コレラ菌)は黄色のコロニーを形成する。

 

2.組成(精製水1000mlに対して)

 

カゼイン膵消化ペプトン 5g
大豆パパイン消化ペプトン 5g
酵母エキス 5g
白糖 20g
牛胆汁 5g
コール酸ナトリウム 3g
塩化ナトリウム 10g
チオ硫酸ナトリウム 10g
クエン酸第二鉄 1g
クエン酸ナトリウム 10g
ブロムチモール青 40mg
チモール青 40mg
寒天 15g

pH 8.6±0.2

 

 

3.培地組成の役割

カゼイン膵消化ペプトン・大豆パパイン消化ペプトン

細菌が発育するために必要な栄養素は①窒素源②炭素源である。細菌は蛋白質を分解する能力がないので、タンパク質をポリペプチド・ペプチドの型まで消化すると細菌が分解することができる。この蛋白を消化または分解した物質をペプトンと言う。ペプトンの種類としてはカゼインペプトン・大豆ペプトン・獣肉ペプトン、心筋ペプトン・ゼラチンペプトン等があるが、本培地ではカゼインペプトン(膵臓のパンクレアチン消化)と大豆パパイン消化が用いられている。カゼインペプトンは経済的に優れているので基礎ペプトンとして使用されて、大豆パパイン消化ペプトンは炭水化物、ビタミン、ミネラルを豊富に含んでいるためにエキス的な役割を果たす。(発育促進物質として)

酵母エキス

一般的な細菌が発育するためには必須の栄養素ではない。一般的にはペプトンの補助栄養剤として使用する。エキス類を添加することで不足した栄養分を補うことで細菌の発育を促進することができる。また細菌の酵素活性を上げる作用(補酵素作用)はビタミン類に豊富に含まれているためである。

白糖

培地中に含まれる白糖は①エネルギー獲得のための炭素源として②炭水化物の分解による菌種の鑑別の目的である。本培地では白糖分解菌と白糖非分解菌を鑑別することができる。即ち、腸炎ビブリオは白糖非分解であるのに対してコレラ菌は白糖を分解する。このために両者を区別できる。

牛胆汁・コール酸ナトリウム

目的は①グラム陽性菌、酵母用真菌の発育を阻止することである。(グラム陽性菌はペプチドグリカン層が厚く、細胞外膜がないために界面活性剤により溶菌されるために発育ができないがグラム陰性菌はペプチドグリカン層が薄く、細胞外膜が厚いために溶菌されないために発育できる。)②プロテウスの遊走を阻止することである。胆汁酸塩としてデオキシコール酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、タウルコール酸ナトリウムが培地で利用されるが、デオキシココール酸ナトリウムはこれらの胆汁酸塩の中では最も選択力は強いが、培地中では不安定な物質である。そのために過剰な加熱や急激な温度変化等で結晶が析出しやすい。そのために一般的にはデオキシコール酸ナトリウム:コール酸=6:4の割合混合した胆汁酸塩を使用されるのが一般的である。

 クエン酸鉄、クエン酸ナトリウム

pH調整剤(クエン酸、クエン酸三ナトリウム等)として使用されている。

クエン酸鉄アンモニウムは析出した胆汁酸を中和して無毒化し、クエン酸ナトリウムは胆汁酸(コール酸ナトリウム)の培地中での溶解度を高める。同時にグラム陽性菌の発育を抑制する。

チオ硫酸ナトリウム

チオ硫酸ナトリウムはイオウ源として利用する。同時にクエン酸ナトリウム、胆汁、コール酸の共存により、培地のアルカリ性の条件でグラム陽性菌や大腸菌群の発育を抑制する。

ブロムチモール青(BTB

BTBはpHの変化によって変色する色素で、総称してpH指示薬と言う。培地に発育したビブリオのコロニー白糖分解菌は乳酸を産生するためにpH 指示薬であるBTBが黄変する。白糖を分解できない菌は培地中のペプトンの分解によるアルカリ化のために緑色の透明のコロニーを形成する。プロトン化および脱プロトン化の形態ととることができ、それに伴い色調が変化する。色の変化は pH < 6.0で黄色、pH > 7.6 で青色であり、その中間では緑色を示す。ただし、非常に強い酸に対しては赤色を、非常に強い塩基に対しては紫色を示す。

チモール青(TB

TBはpHの変化によって変色する色素で、総称してpH指示薬と言う。 pH指示薬としての特性は二段階変色を呈し、pH1.2以下で赤色、2.8から8.0では黄色だが、9.6以上では青色に変化する。

寒天

寒天は培地の固形化剤である。原料は海藻であるテングサ、オゴノリである。細菌検査培地としてはオゴノリが原料として使用されている。(安価であるから)寒天の主成分はアガロースで糖が直鎖状につながっており、細菌には分解されにくい構造になっている。寒天の内部に水分子を内包しやすく、多量の水を吸収してスポンジ状の構造を形成する。水分を蓄えることができ、栄養分をその中に保持しておける。そのため、微生物の培地に適する。寒天を加熱していくと解ける温度を融点、また解けた寒天が固まる温度を凝固点と言うが、寒天は融点が85~93℃、凝固点が33~45℃である。これも寒天に混ぜる成分により変動する。良い培地か否かは寒天の品質が重要である。寒天の品質とは透明度、ゼリー強度、粘度、保水力が優れていることである。

 

4.使用法

①  選択増菌培地(アルカリペプトン水)で37℃、18-20時間培養。

②  培養液から1白金耳を採取し、TCBS寒天培地に画線塗抹する。

③  35℃±2℃の孵卵器で20±2時間培養する。

④  コロニーの有無を確認。

発育コロニーについては成書に従いビブリオの同定をする。

 

5、<定量培養> #定性法で陽性の場合は実施する

⑤  食品の10%乳剤を10 倍段階希釈する。

⑥  各希釈段階の 0.1 ml をTCBS寒天培地上に滴下し、コンラージ棒で広げる。

⑦  37℃で24時間培養する。

⑧  集落の数をカウントし、1g 当たりの菌数を算出する。

*同定が必要です

 

6.培地の限界 

1. ビブリオ属以外の細菌が発育することがある。K.pneumoniae、Proteus spp. Pseudomonas spp. Aeromonas spp. Enterococcus spp. Candida spp.等のビブリオ属以外の菌が発育することがある。中でもK.pneumoniaは黄色コロニーを形成し、コロニーの大きさもコレラ菌に酷似しているので注意する必要がある。この現象は培地作成の経時日数に従って増える。発育したコロニーは同定試験が必要である。

2. 白糖分解性が弱い、または遅延のコレラ菌はTCBS寒天培地では緑色または無色のコロニーを形成することがある。コロニーの鑑別のときは注意する必要がある。

3.発育できないビブリオ属菌種がある。多くのビブリオ属菌は本培地で発育するが、栄養要求性の厳しいV.hollisae,V.metchnikoviiは発育することができない。これらの菌種の検出が必要な場合はTCBS寒天培地は不適である。

4、試験試料中には腸炎ビブリオ,コレラ菌等の病原ビブリオの菌数が少なく、V.alginolticusの菌数が多いケースではV.alginolyticusのオーバーグロスにより検出できないことがある。V.alginolticusは旺盛な発育と白糖分解能が強いために培地全体が黄変し、少数の腸炎ビブリオが存在する試料からは検出することはできない。

6、孵卵器から取り出した直後のTCBS寒天培地に発育した黄色コロニー(例えばコレラ菌等)が室温放置後に緑色のコロニーに変色することがある。

7、発育したコロニーをチトクロームオキシダーゼテストに使用できない。正しい試験結果が得られない。(特に白糖分解菌(黄色コロニー))⇒偽陰性反応

8.発育したコロニーを用いて診断用免疫血清(腸炎ビブリオ・コレラ等)による凝集試験には使用できない。⇒全く凝集しないか、弱い凝集反応になる)

9.正しいビブリオ菌数の測定ができない場合がある。食品中に存在するビブリオの損傷菌は発育不良である。食品中の細菌は加熱、乾燥、凍結や製造工程により細胞膜・細胞壁がダメージを受けると(損傷菌)本培地に含まれているコール酸ナトリウム、牛胆汁の影響を受けやすいために発育が不良になる。さらに凍結された魚介類の腸炎ビブリオを検査する場合には本培地は不適である。適当な液体培地による前培養が必要。

11.TCBS寒天培地は製造会社、製造ロットにより、そのパーフォーマンスは大きく変動する。使用にあたっては培地の精度管理が重要である。本培地は特に培地の発育支持力、選択性は経時・保存法等によっては大きく劣化する。

 

参考文献; 

Ronald M.Atlas : 1997 Handbook of Microbiological Media  CRC Press US.

小林俊一:日本細菌学雑誌 18;387 1963

島田俊雄:食品衛生検査指針 微生物編 日本食品衛生協会(2004)

工藤由紀子:モダンメディア 54巻6号 2008

友近健一:防菌防黴学誌、30:85-90 2002.

坂崎利一:新 細菌培地学講座 近代出版 1988

能勢征子:食品衛生学雑誌 29,38-46 1987

Morris ,G,K : J.Clin.Microbiol.9-79   1985

 

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