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培地学シリーズ9

 

 大川微生物培地研究所 所長 大川三郎

大川先生の略歴

https://www.facebook.com/ohkawa.saburo

 

リステリア・モノサイトゲネス選択培地

はじめに

Listeria monocytogenesは1926年イギリスのE.G.D.Murryにより発見された。本菌をウサギに接種後、感染したウサギの末梢血の白血球の分類検査により単球(monocyte)増多をきたす。本菌の名称は単球増多に由来するが、ヒトでは必ずしも単球増多は見られない。

リステリア属の学名は消毒法を開発したイギリスの外科医ジョセフリスターに因んで命名されたものである。Listeria monocytogenesは人獣共通感染症原因菌であり、動物の腸管内、土壌、下水などに広く分布し、食品汚染の機会が多い。0℃を含む低温下での増殖能を有し、12%食塩存在下でも増殖可能な菌である。

リステリア汚染が高いとされる食品には生ハムやサラミソーセージをはじめとする非加熱食品製品、未殺菌乳やそれらを原料とする乳製品、魚介類、惣菜等食品が挙げられる。健康人が感染した場合は軽い感冒様症状や下痢を引き起こす。

食品からListeria monocytogenesの検出用の選択分離培地としてはALOA寒天培地、PALCAM寒天培地、CHROMagar Listeia培地等がある。今回は最もよく良く利用されているALOA寒天培地について紹介する。

 

ALOAAgar Listeria Ottaviani and Agosti)寒天培地

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1.原理

ALOA寒天培地はβ―Dグルコシダーゼ(酵素基質)ホスフォリパーゼの産生の有無によりリステリア属菌Listeria monocytogenesの選択分離・鑑別用培地として、1997年にOttavianiAgostiにより考案された。基礎培地は肉ペプトン、カゼインペプトンに酵母エキスが加えられた栄養価の高い組成である。酵母エキスはリステリア菌の発育とリパーゼ反応活性促進のために使用されている。選択剤としてナリジキン酸、セフタジジム、ポリミキシンB、アンフォテリシンが含有されているために、リステリア属菌以外のほとんどの細菌の発育を抑制することができる。鑑別剤として5-brom-4-chloro-3-indolyl-β-glucopyranosideとホスファチジニルイノシトールが含まれている。従って、リステリア属菌では青緑色、リステリア属菌以外の菌は無色から黄色のコロニーを形成する。同時にコロニー周囲の白濁(ハロー)の有無により、ホスフォリパーゼ活性により、Listeria monocytogenesはコロニー周囲白濁(ハロー)の性状を示すが、他のリステリア菌種ではコロニー周囲の白濁は示さない。以上のことから本培地ではリステリア属菌の選択培地とListeria monocytogenesの鑑別培地として使用できる。


2.組成(精製水1000mlに対して)

 

 

酵母エキス 10g
カゼイン膵消化ペプトン 6g
獣肉ペプシン消化ペプトン 18g
塩化ナトリウム 5g
ブドウ糖 2g
ピルビン酸ナトリウム 2g
グリセロリン酸マグネシウム 1g
硫酸マグネシウム 0.5g
塩化リチウム 10g
リン酸水素二ナトリウム 2.5g
5ブロモー4クロロー3インドリル-β―Dグルコピラノシド 0.05g
ホスフォチジニルイノシトール 2.0g
ナリジキン酸 20mg
セフタジジム 20mg
ポリミキシンB 10mg
アンフォテリシンB 10mg
寒天 15g

pH 7.2±0.2


3.培地成分の役割


酵母エキス

酵母エキスは炭素・窒素源としてよりも,ビタミン・核酸・アミノ酸・有機酸・ミネラル等が豊富に含まれるためにリステリア属菌の生育促進物質の目的で用いられている。

 

カゼインペプトン・獣肉ペプトン

細菌が発育するために必須の栄養素は①窒素源②炭素源である。細菌は蛋白分解力をもたない為に、蛋白質をポリペプチドやペプチドの型まで消化または分解しないと栄養素として利用できない。(蛋白を消化または分解した物質をペプトンと言う)培地に一般的に使用されるペプトンとしてはカゼインペプトン・大豆ペプトン・獣肉ペプトン、心筋ペプトン・ゼラチンペプトンである。各ペプトンは培地の組成に合せて選択される。本培地はカゼインペプトン(膵臓のパンクレアチン消化)とプロテオーゼペプトン(獣肉ペプシン消化)の2種類のペプトンが使用されている。カゼインペプトンは経済的に優れ、トリプトファンに富む.含硫アミノ酸が少ない。獣肉ペプトンはトリプトファンに乏しい.含硫アミノ酸が多い.ビタミンや発育因子が多いなどの特徴がある。

 

ピルビン酸ナトリウム

リステリア属菌の発育増強剤として、同時に損傷菌の保護物質として用いられている。

 

塩化ナトリウム

細胞膜の浸透圧の維持のために用いられている。

 

ブドウ糖

ブドウ糖(炭水化物)は①エネルギー獲得のための炭素源として②炭水化物の分解に酵素産生させるために含まれている。リステリア属菌が培地に含有されているブドウ糖を分解するときにβ―Dガラクトシダーゼという酵素が産生される。

 

5-ブロモー4―クロロー3-インドリルーβ―D―グルコピラノシド

ブドウ糖の分解時に産生されるβ―Dグルコシダーゼの検出用の発色酵素基質である。β―Dグルコシダーゼによって分解されることにより青緑を発色する。

 

リン酸水素二ナトリウム

pH緩衝剤として用いられる。培地のpHは組成の成分によりそのPHは変動する(強酸性になったり、強アルカリ性になったりすることがある。)この変動を防ぐ。リン酸水素二ナトリウムにより培地のH7.2±0.2を常に維持する。(リステリア属菌の至適pHを提供することができる。)

 

硫酸マグネシウム

ホスフォリパーゼ活性の賦活剤として添加されている。(Mg、Caの2価カチオンは酵素活性の増強剤として使用される)

 

グリセロリン酸マグネシウム

L.monocytogenesは炭素原として分解することが可能である。他のリステリア属菌は分解することができない。グリセロリン酸マグネシウム分解するときにはホスフォリパーゼという酵素が産生される。この産生された酵素が培地組成のホスフォチジニルイノシトールを分解する。

 

ホスフォチジニルイノシトール                   

L.monocytogenesと他のリステリア菌をホスフォリパーゼ反応の有無で鑑別するために用いられている。すなわちL.monocytogenesはホスフォリパーゼ反応陽性により、コロニーの周囲に混濁したハロー形成するが、他のリステリア菌はホスフォリパーゼ陰性であるのでコロニー周囲の混濁したハローは形成しない(コロニー周囲は透明)

 

塩化リチウム

選択剤として用いられ、乳酸菌、腸球菌の発育を抑制する。

 

ナリジキン酸・セフタジジム・ポリミキシンB・アンフォテリシンB

リステリア属菌に対しては抗菌効果がない抗生物質等の抗菌剤を選択剤として使用している。

ナリジキン酸はプロテウスを含むグラム陰性桿菌
セフタジジムは第二世代セフェム系抗生物質で広域スペクトルを有しグラム陽性菌とグラム陰性菌
ポリミキシンBはプロテウスを除くグラム陰性桿菌(特に緑膿菌等の非醗酵性グラム陰性桿菌)
アンホテリシンBは酵母用真菌の発育を抑制する。

したがってこれらの選択剤によりリステリア属菌以外の細菌は発育ができない。<一部の菌株を除く>

 

寒天

寒天は培地の固形化剤である。原料は海藻であるテングサ、オゴノリである。細菌検査培地としてはオゴノリが原料として使用されている。(安価であるから)寒天の主成分はアガロースで糖が直鎖状につながっており、細菌には分解されにくい構造になっている。

寒天の内部に水分子を内包しやすく、多量の水を吸収してスポンジ状の構造を形成する。水分を蓄えることができ、栄養分をその中に保持しておける。そのため、微生物の培地に適する。寒天を加熱していくと解ける温度を融点、また解けた寒天が固まる温度を凝固点と言うが、寒天は融点が85~93℃、凝固点が33~45℃である。これも寒天に混ぜる成分により変動する。良い培地か否かは寒天の品質が重要である。寒天の品質とは透明度、ゼリー強度、粘度、保水力が優れていることである。

 

4.使用法<定量培養> #定性法で陽性の場合は実施する

①  食品の10%乳剤を緩衝ペプトン水10 倍希釈する。

②  20±2℃、1時間 静置培養する。

③  必要に応じて10倍希釈系列液を作成する。

④  各希釈段階の 1.0 ml を3枚のAOLA寒天培地分けて上に滴下し、コンラージ棒で広げる。

⑤  37℃で24―48時間 好気培養する。

⑥  青緑色(+)、コロニー周囲のハローを伴う白濁(+)集落の数をカウントし、1g 当たりの菌数を算出する。

 

5.培地の限界


1.リステリア菌以外の菌種が発育する

Bacillus cereus ,Pseudomonas aeruginosa Enterococcus spp.などの菌種が発育することがある。(特に試料中の菌数が多い場合)⇒選択剤の限界

 

2.L.monocytogenes以外の菌種でホスフォリパーゼ反応陽性を示す。

Listeria ivanoviiの一部の株は弱いハロー形成を示すことがある。48時間培養するとハローが明瞭になりL.monocytogenesと区別ができない。

Bacillus cereusの一部の株が本培地に発育し、平坦で周囲不規則なラフ型コロニーを形成する。白色から黄色のコロニーで大きなハローを形成する。

 

3.ホスフォリパーゼ反応が24時間培養では陰性の場合がある。

 ホスフォリパーゼ活性の弱いL.monoctogenesは24時間培養ではハローを形成できない場合がある。このケースでは48時間培養でハローを認めることができる。

 

4.リステリアの損傷菌は発育阻害を受けるために本培地では発育できないか、または発育時間が遅延する場合がある。

食品中のリステリア菌は加熱、乾燥、凍結や製造工程により細胞膜・細胞壁がダメージを受けると(損傷菌)発育が抑制または阻止される場合がある。培地に含まれる選択剤の影響を受けやすい。

 

 6.参考文献; 


Ottaviani F.,Ottaviani M.,and Agosti M. 1997 Industrie Alimentari 36,1-3

Bannerman,E.S.,and J.Bille. 1988.Appl.Environ.Microbiol.54;165-167

Beumer,B.R.,E.Brinkman. 1989 Food microbial.54:165-167

Brackett,R,E.,and L.R.Beuchat. 1989 J.Food microbial.8;219-223

Loessner,M.J.,r.H.Bell et al  1988 J.Food Prot.51;84-841

坂崎利一:新 細菌培地学講座 近代出版 1988

B.Steel,W.Luf,M.Wagner and D.Schoder  2009 J.Appl.Microbiology 106,651-659

食安発1128第2号 平成26年11月28日

http://www.mhlw.go.jp/file/06-seisakujouhou-11130500-shokuhinanzenbu/0000067540.pdf

食案発1225第1号 平成26年12月25日

http://www.mhlw.go.jp/file/06-seisakujouhou-11130500-shokuhinanzenbu/0000070321.pdf

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