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  第42話「蟻の一穴と検便の限界」

 

 

 北海道大学名誉教授・日本食品分析センター顧問 一色賢司

一色先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

 

 

ヒアリがわが国でも見つかり,対策が急がれています。草刈り後の小生の右手首に痛痒さを感じました。藪蚊に刺された時とは違う痛さでした。7㎜程離れて刺し跡が2つありました。ダニでしょうか。ヒアリも嫌ですが、マダニも嫌ですね。重症熱性血小板減少症候群(SFTS)を引き起こすウイルスを媒介します。広島の動物園ではチータがSFTSで死亡しています。おかげさまで、小生は軽症ですみました。

病原菌はヒアリやマダニよりも小さく,肉眼では見ることはできません。我が国の食品分野でも病原菌対策が強化されていますが,関東では腸管出血性大腸菌O157による食中毒が発生しています。原因食品はポテトサラダと推定されています。米国からは,あるお店のドーナッツを食べた約400人の客が,ノロウイルス食中毒を発症したというニュースが伝えられています。カナダでは図1の写真のような各種ケーキが大量にリコール・製品回収されています。ノロウイルス食中毒の原因調査に由来するものだそうです。原因食品を製造した製菓工場からは,数種類のケーキ類が冷蔵と冷凍で出荷させていたそうです。冷蔵のみならず冷凍食品に付着・混入したノロウイルスは長期間、不活性化しないと思われます。今回は、病原菌対策の一手段として,繁用されている「検便」についてお話しします。

 

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1)検便は食品衛生の一手段

我が国では、2月に起きた学校給食のキザミノリによるノロウイルス食中毒(第38話)等を受けて厚生労働省が本年6月に「大量調理施設衛生管理マニュアル」を改訂しています。検便の確実な実施について注意が述べられています。ノロウイルスによる大規模な食中毒が発生し,発症に至ったウイルス量が極めて少ないと推定されたことや,下痢等の自覚症状がありながら食品を取り扱ったことに対する反省です。ノロウイルスやO157等への対策における調理従事者の健康状態確認等の重要性が再確認されています。

調理従事者の健康状態の確認及び記録の実施等について、上記マニュアルの改正が行われています。大量調理施設のみならず、中小規模調理施設等においても、衛生管理の徹底を図ることが要請されています。検便は上記マニュアルでは、月に 1回以上実施して病原菌を保菌していないことを確認することが求められています。10月から3月までの間は、ノロウイルスも検査項目とすることが努力義務とされています。

検便だけでは、食品の安全性確保はできません。便の採取時に陰性であっても、その後、何らかの病原体に感染すると保菌者になってしまいます。感染後、潜伏期を経て症状が出る場合もあれば、症状が現れずに健康保菌者になって場合もあります。食中毒発生時の原因究明には検便は有効です。フードチェーンの何処で病原体が混入したのか等の情報も得る可能性もあります。食品工場には食品を取り扱わない人、例えば事務や清掃の担当者もいます。病原体の保菌者がいれば、何らかの経路を経て食品取扱い区域や食品等が汚染される可能性があります。検便は健康保菌者の発見等に有効な手段ですが、検便だけでは食品衛生は達成できません。

 

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2)腸チフス・メアリーを忘れずに

 食品の安全性を確保する基礎的な取り組みとしてCodexは、図2の「食品衛生の一般原則」を1997年に採択しています。我が国では、「食品等事業者が実施すべき管理運営基準に関する指針(ガイドライン)」に反映されています。食品の原材料の生産から消費者による最終消費まで、全員で安全性を確保する必要があることが第3章から第10章に、順次書かれています。付属文書として「HACCPとその適用のためのガイトライン」が示され、一般原則を基礎としたHACCPシステムの構築が推奨されています。図3にHACCPシステムの基礎としての一般原則とHACCPの関係を示します。

 

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 一般原則の第7章は、ヒトの衛生について記述されています。図4に示しますように、1900年ころの衛生観念には、健康保菌者の概念は生まれていませんでした。メアリーさんが家政婦として働いた地区では腸チフスの患者が増えました。保健当局や警察はメアリーさんに事情を聴き、裁判所は適切な医療を受けることを勧告しました。しかし、メアリーさんは姿を消し、別の場所で働くことを選んでしまいました。腸チフス患者が増えてしまいました。

 

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 現在では、健康保菌者もいることは常識になっていますが、対策は簡単ではありません。前回お話ししましたように、少量感染が問題となる病原菌もいます。図5に示しましたように、食品の安全性確保には「リスク分析」と「フードチェーン対策」を両立させる必要があります。フードチェーンはより複雑になっています。冷蔵や冷凍・解凍に関する技術開発は進んでいますが、病原菌が混入した場合の消長は不明な場合がほとんどです。病原菌が生き残り易い状況になっている可能性もあります。低温利用というフードチェーンの流れの土手も蟻の一穴で崩れる可能性もあります。

検便等の各種手法を組み合わせて、安全な食品の安定供給・調達を補強しましょう。 

 

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【参考文献】

1) Food Safety News: Doughnut shop norovirus outbreak mystifies local officials,http://www.foodsafetynews.com/2017/08/doughnut-shop-norovirus-outbreak-mystifies-local-officials/#.WZ43e_hJb8k  (2017年8月22日)

2) Food Safety News: Recall expanded: Raspberry mousse cakes linked to outbreak,

http://www.foodsafetynews.com/2017/08/recall-expanded-raspberry-mousse-cakes-linked-to-outbreak/#.WZ44HPhJb8k  (2017年8月17日)

3)厚生労働省:「大量調理施設衛生管理マニュアル」の改正について、2017年6月16日

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000168026.pdf#search=%27%E5%8E%9A%E7%94%9F%E5%8A%B4%E5%83%8D%E7%9C%81+%E5%A4%A7%E9%87%8F%E8%AA%BF%E7%90%86%E3%83%9E%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%AB%27

4)厚生労働省:「食品等事業者が実施すべき管理運営基準に関する指針(ガイドライン)」について、2014年5月12日

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/140523.pdf#search=%27%E9%A3%9F%E5%93%81%E8%A1%9B%E7%94%9F+%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%27

5)安藤泰雅、他:食品の冷凍および解凍に関する技術開発の現状と今後の課題、日本食品科学工学会誌,64(8), 391-428(2017)

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