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  第43話「感染症も意識した食中毒対策を」

 

 

 北海道大学名誉教授・日本食品分析センター顧問 一色賢司

一色先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

 

 

赤痢やコレラなどの感染症を起こした場合でも、病原体が飲食物によって媒介された場合は食中毒としても登録されます。現在、腸管出血性大腸菌O157食中毒の散発事例が各地から報告されています。残念ながら,幼い子が犠牲となってしまいました。

例年、秋以降にノロウイルス感染症が増加傾向を示します。前回お話しましたように、厚生労働省は食品取扱者の検便頻度を10月から毎月1回以上に増やすことを要請しています。従来からの食中毒対策に止まらずに,食品媒介感染症対策について考えてみましょう。

 

1)感染症と感染源について

感染症とは、大気、水、土壌、動物(人も含む)などの環境に存在する病原性を持つ微生物が、人の体内に侵入することで引き起こされる疾患です(図1)。

 

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私たちの身の回りには、常に目に見えない多くの微生物が存在しています。その中で、感染症を引き起こす微生物を病原体といいます。アニサキス、回虫やギョウ虫のような寄生虫によって起こる寄生虫症も感染症の1つです。病原体が人間の体内に侵入、定着し、増殖することで,感染は成立します。図1のように,感染しても、症状が現れる場合(顕性感染)と,症状が現れない場合(不顕性感染)があります。不顕性感染者は、知らない間に保菌者(キャリア)となって病原体を排泄し、感染源となって感染を拡げる可能性が高いので、前回のように体調管理や検便等の対策が必要になります。目に見えない病原体や寄生虫が、どこから、どのように侵入するのか(感染経路)を知ることが大切です。

 

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図2のように。病原体に感染した人(感染者)・動物・昆虫や病原体で汚染された物や食品が感染源となります。感染者や感染動物などからの排泄物・嘔吐物・血液・体液など、保菌者(キャリア)や感染動物が触れた物や食品などです。感染源を隔離したり消毒したりすることなどが、有効な対策方法です。食品取扱施設に感染源を持ち込むことは許されません。しかし、病原体に感染していても発症しない健康保菌者もいるので、十分な対策ができない場合もあります。前回、お話したように、検便の効果にも限界があります。

 

 

2)感染経路について

感染が起こるには、感染源から病原体が、何らかの経路を通って人間に侵入しなければなりません。そのため、感染経路の遮断は、重要な対策の1つとなります。日常生活において、注意すべき主な感染経路としては、図3のように①接触(経口)感染、②飛沫感染、③空気感染(飛沫核感染)の3つが挙げられます。

 

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 ①接触(経口)感染とは、皮膚や粘膜の直接的な接触や、手、ドアノブ、手すり、便座、スイッチ、ボタン等の表面を介しての接触で病原体が付着することによる感染のことです。病原体に汚染された食品・物・手指、病原体を含む汚物・嘔吐物を介して主に口から体内に侵入します。ノロウイルス、ロタウイルス、腸管出血性大腸菌O157、サルモネラ属菌、黄色ブドウ球菌などによる感染性胃腸炎が代表です。HIV感染によるエイズ、クラミジアのような性行為による感染症は、血液や体液、粘膜を通して感染する接触感染になります。病原体を持つ動物に噛まれたり、引っかかれたり、体や糞に触れることによって感染する狂犬病やトキソプラズマなどや、蚊・ノミ・ダニなどに刺されて感染するマラリアや日本脳炎などのように、動物や昆虫を媒介として感染する場合もあります。

 ②飛沫感染とは、咳、くしゃみや会話によって飛んだつばやしぶき(飛沫)に含まれる病原体を吸入することで引き起こされる感染です。飛沫は直径0.005mm以上の大きさで、水分を含むため、届く範囲は感染源から1~2m程度と言われています。そのため、マスクの着用や感染源から距離をとることが有効な対策となります。飛沫感染で起こる疾病の代表としては、インフルエンザ、風邪症候群、おたふく風邪、風疹などです。ノロウイルス等の食中毒の原因になるウイルスも要注意です。

 ③空気感染(飛沫核感染)の飛沫核とは、飛沫に含まれる水分が蒸発した直径0.005mm以下のウイルスを含む粒子によっておこります。空間に浮遊して広範囲に広がります。病原体は埃と共にも浮遊し、これらを吸入することで伝播することを空気感染または飛沫核感染と呼んでいます。ノロウイルス、麻疹ウイルス、結核菌などが空気感染によって感染します。その他の感染経路として、母親から胎児・新生児に、胎盤や母乳などを介して病原体が直接伝播される母子感染(垂直感染)があります。 

①接触(経口)感染、②飛沫感染、③空気感染(飛沫核感染)の3つの感染経路について対策を立てるには、科学的な知見と考察が効果的です。孫子の兵法の一つ「彼を知り、己を知れば」を参考にした考察が必要です。あなたがO157だったとしたら,あなたの工場に迷い込んだ場合,どのようにして生き延びる,あるいは増殖するのだろうかと考えてみることが必要です。

その一方で忘れがちなのは、食品取扱施設を出た後の感染症対策です。我々の生活環境には、O157やノロウイルスは潜んでいる、あるいは図3のように漂っている可能性があります。これらの病原体は、人間の腸にたどり着ければ増殖できるのです。自分自身も家族も、隣近所の住民も皆さん、病原体の増殖能力を持っていることを忘れないようにしましょう。食品取扱施設の外でも、清潔に過ごしましょう。

 

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我が国は、1996年にかいわれ大根が原因食品として疑われたO157集団食中毒を経験しました。この頃までは、図4のように食品取扱者は食中毒予防3原則として、「①清潔を保つ、②迅速に食べる、③温度管理を行う」を心がけていました。感染症対策は保健所などの仕事と考えられていました。かいわれ大根騒動のより、大腸菌の一種であるO157などが赤痢菌の毒素を持つようになったことが知られ、食品取扱者においても感染症予防の必要性が認識されました。感染症予防として「①病原体を殺す、②感染経路を断つ、③隠れ家を与えない」の3項目を追加するようになりました。厚生労働省は、食中毒予防として、病原体を「①つけない、②増やさない、③やっつける」を3原則として指導を行うようになりました。感染症対策を含む食中毒対策は、食品取扱者だけでは成功しません。国民(消費者)全員の協力が必要ですね。

 

【参考文献】

1)小久保 彌太郎:現場で役立つ食品微生物Q&A,第4版 (2016)

2)厚生労働省:食中毒、

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/index.html

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