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  第5話「どこで増え、どこで減るのか」


 北海道大学名誉教授・日本食品分析センター顧問 一色賢司

一色先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

 

食中毒の原因となる微生物も「一生懸命」、あるいは「一所懸命」に生きています。「置かれた場所で咲きなさい」と遺伝子が命令しているのかも分かりません。

図1に示した増殖要因が整うと増加を始めます。細胞分裂で増殖を行う細菌では、表2のように1菌体が2菌体になり、次々に増えて行きます。一度分裂した細菌が,成長してつぎに分裂するまでの時間を世代時間と呼んでいます。表2のように条件が良ければ、腸炎ビブリオでは10分間、サルモネラや大腸菌では約20分間くらいです。

条件が整えば、1個の生きた腸炎ビブリオは,2時間後には4096個に,6時間後に約690億個という信じがたい菌数に増殖します。

 

微生物を増殖させて食品をより良い物にする発酵や熟成工程は別として、食品の取り扱いでは、図1のように農場から食卓まで、微生物の汚染を防止し、洗浄・殺菌等の様々な微生物制御が行われています。菌数を減らしたり、冷蔵で増殖を抑制したりする工夫が施されています。

どこで微生物が増えるのか、減るのか、測定して実態を把握することは微生物制御の基本です。実態が分からないまま、過剰な対策や的外れの対策を取ることは資源の無駄遣いや食品の品質低下、コスト高を招くことになります。

細菌の増殖に影響するフードチェーンの要因

 図1に示した細菌の増殖に影響する要因は、微生物制御のチェックポイントでもあります。食品の安全性を確保しつつ、色・味・香り等の品質要件を低下させないためにも増殖要因を良く調べ、対象微生物の弱点を利用する制御法を選択することが望まれます。

細菌や酵母・カビなどの微生物は、図1に示したフードチェーンのどこでも、食品に取りつき、増殖する可能性があります。増殖可能か、否かは図1の増殖要因が整うか否かで決まります。最終食品だけの微生物制御だけではなく、フードチェーンに関係する要因にも配慮する必要があります。特に、人間や家畜、ペット等の動物がO157等の食中毒菌の増殖の場になりますので、要注意です。

食中毒菌の増殖と菌数

細菌や酵母・カビには、増殖するためのタンパク質合成などの機能が備わっていますが、ウイルスには備わっていません。ウイルスは細菌と比べて小さく、膜の中DNAまたはRNAなどの遺伝情報が収まっている構造です。ウイルスは自分自身だけで増殖することはできず、増殖には他の細胞に寄生する必要があります。

ノロウイルスは、毎年、我が国でも多くの患者を出しています。発展途上国からは調査結果の報告はありませんが、世界中の人類を困らせていると思われます。ノロウイルスの増殖の場は、人間の小腸上皮細胞です。食品を媒介としない、ヒトーヒト感染も起こりうるノロウイルス対策の基本は、人間の小腸上皮細胞にノロウイルスが到達しないようにすることだと思われます。そのためには、各個人の手洗い、うがい、マスク着用等の衛生的な生活が必要です。ノロウイルスを小腸で増やして後に対策を取るよりも、小腸に到達させない取り組みが推奨されます。

 

【参考文献】

宮本敬久、第3章食品と微生物、食品衛生学、一色賢司編、東京化学同人(2014)

厚生労働省、ノロウイルスに関するQ&A、2014年3月28日、

http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/03.html