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  第66話 「Codex総会STEC対策作業開始を承認」

 

 

 北海道大学名誉教授・日本食品分析センター顧問 一色賢司

一色先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/ 

 

 

 


 志賀毒素産生性大腸菌STECは、志賀潔博士が赤痢菌から発見した志賀毒素(Shiga toxin)を産生する能力を持つ大腸菌の総称です(第59話参照)。最も有名で、恐れられているSTECは、腸管出血性大腸菌O157です。

食品が媒介するSTECによる健康被害が、先進国を中心に報告されています。STECの診断技術や治療態勢がなく、健康被害が調査されていない国々も多いのではないかと心配されます。

Codex国際食品規格員会は、STECによる被害の未然防止の努力を呼びかけ、その対策について準備を進めていました。Codexは、図1のように2019年7月の総会で、科学的根拠や過去の有用な経験を取りまとめたSTEC対策ガイドラインの作成することを承認しました。

 

 

 

1)STEC食中毒について

 

大腸菌は人間の赤ちゃんから見つけられた細菌であり、腸内細菌として我々と共存しています。牛などの動物にも共存しています。海水浴場の水質検査で大腸菌が見つかると糞便汚染されている可能性があり,その対策が問題になります。
来年の東京オリンピック・パラリンピックでは、東京湾のお台場も会場になります。図2のように、そのトライアスロン会場で大腸菌数が問題となり,スイム競技が中止されてしまいました。

大腸菌は,食品の衛生管理指標としても重要です。食品あるいは食品取り扱い環境から大腸菌が検出されると、糞便汚染を受けている不潔な食品、あるいは不潔な環境であると見なされます。腸内細菌科菌群や大腸菌などとSTECとの関係は図3に示しました。

 

 

 

表1は諸外国におけるSTEC食中毒の発生例です。2011年にはドイツを中心に患者数4000人以上、死者数50人の深刻な食中毒が発生しています。原因食品はフェヌグリークもやしでした。
調査が行われていない国々もあり、表1に示されているSTECによる食中毒は、氷山の一角に過ぎないと思われます。最近、エジプトから英国に帰国してSTEC感染症と診断される患者数が多くなっていることから,英国政府はエジプトへの旅行者にSTECに感染しないように注意喚起を行っています。 米国では、生食されるレタスなどを原因とするSTEC食中毒が、繰り返し発生しています。

原因となった野菜を出荷した地域は判明しても、当該農場の特定ができない場合が多い事例が報告されています。根本的な解決のために、野菜畑と畜産農場の関係や両者の在り方を見直す必要があると思われます。水やハエに媒介されるSTECの移動が食中毒に関与している可能性を指摘している報告もあります。

 表2は我が国におけるSTEC食中毒の発生例です。1996年の学校給食による大型の食中毒の原因食品を、厚生省はかいわれ大根であろうと推定しています。感染症法に基づく病院からのSTEC感染症診断者の報告数は、食品衛生法に基づく食中毒としてのSTECの患者数の約十倍を超すこともあります。我が国でもSTEC食中毒は表2よりもかなり多く発生しているのではないかと思われます。

 

 

 

2)STECと人間

 

 表3にSTECの性質を示しました。我々人間にとって困ることは、人間と共存している大腸菌の多くは無害であり、STECは大腸菌の一族であることです。STECは通常の大腸菌の性質を持ち、さらに赤痢菌の毒素も作ることができます。従って、身近にSTECがいる自覚を持つとともに、それぞれの食品の取扱いの注意点を把握しておくことが必要になります。

 STECは、他の大腸菌と同様に耐熱性胞子を作りません。75℃、1分間の加熱で死滅します。乾燥状態で死滅させるには、さらに強い加熱が必要です。ただし、加熱不足であったり、加熱処理後に再汚染を受けたりした場合は、食中毒が発生する可能性は残ってしまいます。

 加熱せずに食べる食品の場合は、STEC食中毒を覚悟する必要性が高くなります。表1や2には、生野菜、芽物野菜(もやし)、生肉(ユッケ、ペットフード)によるSTEC食中毒が起こっていることが示されています。我が国では、牛乳は食品衛生法に基づく特別の認可がない場合は、全て加熱殺菌して飲用することが義務付けられています。諸外国では、加熱せずに牛乳を飲む習慣を持つ、あるいは好む人がおられます。チーズも非加熱の牛乳から作られる場合もありあます。これらの非加熱乳製品を原因とするSTECなどの病原菌による食中毒も報告されています。

 大腸菌は人間の大腸内で増殖します。STECも、当然、我々の大腸にたどり着ければ増殖しようとします。消費者が手洗い軽視するなど、不潔な生活をしていればSTEC感染症が発生してしまいます。フードチェーンの一隅にSTECが紛れ込んだ場合は食中毒につながる可能性があります。STECは、発症菌量が100個以下という微量であり、消費者を含むフードチェーンの全体において、STECを排除する努力が必要です。

 

3)対象とする食品群

 

   Codex食品衛生部会(CCFH)の専門家グループはSTEC対策について検討を重ね、優先的に対策を必要とする次の食品を絞り込みました。牛肉、葉物野菜、生乳とそれから生産されるチーズ、芽物野菜(もやし)を当面の対象としました。

 ガイドラインは、各組織からの情報に基づいて、各国が国の状況に適した管理手段を確立するための枠組みの提供を試みます。STEC感染症は出血に至らない下痢程度の軽度の感染症から、出血性下痢症や、腎不全の一種である溶血性尿毒症症候群(HUS)などの生命にかかわる合併症まで、さまざまな病気に関連しています。

 表3に示したようにSTECは、ごく少ない菌量で人間を発症させるため、ガイドラインは、どの食品にも量的な制限(許容値)を設定することは困難と考えられています。一次生産、加工、流通の管理対策、妥当性確認、検証、モニタリング、および毒性影響因子を考慮した食品中のSTECの管理に関する検査手法などが検討されます。

 STECなどの微生物も、たどり着いた環境で、一所(生)懸命に生きようとします。孫氏は「彼を知り、己を知れば」という考え方を示しています。STEC対策では、STECをよく知ることが必要です。とくに、100個以下の少ない菌数で発症し、死に至る可能性を持つことを忘れないようにすることが必要です。STECは、人間の大腸で増殖します。STECのいるところに、大腸という増殖装置を持つ人間が暮らしているとも考えられます。
もし、あなたがSTECだったら、どのようにして生きて延びて行くのでしょうか。

 


参考文献:


1) Codex Alimentarius Commission: CAC42 Report, Aug. 7, 2019 http://www.fao.org/fao-who-codexalimentarius/sh-proxy/en/?lnk=1&url=https%253A%252F%252Fworkspace.fao.org%252Fsites%252Fcodex%252FMeetings%252FCX-701-42%252FReport%252FREP19_CACe_Final.pdf

2) Public Health England: PHE issues advice to people travelling to Egypt, 16 July 2019 https://www.gov.uk/government/news/phe-issues-advice-to-people-travelling-to-egypt

3) E.D. Berry, et al.: Occurrence of Escherichia coli O157:H7 in Pest Flies Captured in Leafy Greens Plots Grown Near a Beef Cattle Feedlot, J. Food Protection, 82,1300-1307(2019).

4) 厚生労働省:腸管出血性大腸菌O157等による食中毒、 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/daichoukin.html

「食べ物と消化器症状」  北海道大学名誉教授・日本食品分析センター顧問 一色賢司 <図1挿入>  秋もたけなわとなりました。食欲の秋を楽しまれている方も多いと思われます。人によっ ては、図1のように、柿を食べたことによって、胃の中に胃石と呼ばれる固いかたまりがで きて、体調を崩される方もいるそうです。食道や胃、腸などの消化管の不調は食べた物と深 い関係にありますが、全てが食中毒に分類される訳ではありません。消化器症状と食べもの について考えてみましょう。 1)食中毒を含む消化器症状  消化器の不調には、腹部の痛み、胸の痛み、胸やけ、呑酸(どんさん)、げっぷ、のどの つかえ、のどの違和感、胃のもたれ、膨満感、食欲不振、嘔(おう)気、嘔吐、便秘、下痢 、下血などがあります。患者さんを診断した医師が食中毒の可能性を保健所等の公的機関に 報告して、食中毒の調査が始まります。多くは原因が不明であり、食中毒としては報告され ないようです。 上記の症状は、消化器の不調や異常が原因で起こることもあれば、それ以外の臓器の不調 や異常が原因となっていることもあります。上腹部には、さまざまな臓器が集まっています 。痛む位置と、病気を起こしている臓器には深い関係がありますが、痛む位置とは異なる臓 器が原因である場合もあります。症状だけから、原因となる病気を正確に突き止めることは 難しい場合があります。正確な診断のためには、経過や痛みのある位置やその程度などが大 切な情報になります。 <表1,図1挿入>  表1には、厚生労働省の食中毒統計作成要領に示されている食中毒事件票の病因物質です 。以前は、伝染病として食中毒とは別に管理されていたコレラ菌や赤痢菌なども、食品が媒 介した場合には食中毒としても対応が取られることになりました。図2のように、食物アレ ルギーや誤嚥なども食中毒には分類されません(第61話参照)。 <表2挿入>  表2には消化器が体調不良の原因となる疾病の例を示してします。日ごろから、暴飲暴食 を慎み、食中毒にも気を付け暮らしましょう。表2の疾病が心配される場合は、病院の診察 をお受けください。 2)世界保健機関WHOの報告  WHOは2019年6月に、「食品安全」ファクトシートによる報告を更新しています。概要は以 下のとおりです。 ①安全かつ栄養豊かな食品は生命の維持と健康の増進に極めて重要。 ②有害な細菌・ウイルス・寄生虫・化学物質が混入した食品による疾病は、下痢からガンま で200種以上。 ③推定6億人(10人に1人)が汚染された食品を摂取した後に発病、毎年42万人が死亡。 ④5歳未満の子供は食中毒によって、毎年125,000人が死亡。 ⑥下痢性疾患は汚染食品による最も一般的な疾病であり、毎年5億5千万人が発症し、23万人 が死亡。 ⑦食品安全、栄養及び食糧保障は密接に関係し合う。安全でない食品が原因で疾病及び栄養 失調の悪循環ができ上がり、特に乳児、幼児、老人及び病人に影響。 ⑧食中毒による健康被害は医療制度を圧迫し、国の経済、観光事業及び商業に害を与え、社 会経済の発展を妨害。 ⑨今日のフードチェーンに国境はない。各国の政府、生産者及び消費者間の緊密な連携が必 要。    地球上には食料が不足し、質の悪い食品を食べざるをえない人もたくさんいます。⑥には 、消化器症状である下痢で悩み、命を落とす人々が多いことが報告されています。⑦には、 食品安全、栄養、食糧保障の関係が述べられています。2004年には、ケニアでカビの生えた トウモロコシによるアフラトキシン急性中毒で317名が発症し、125名が死亡しています。先 進国では、発がんを恐れてアフラトキシンの規制が厳しく行われています。世界中で、カビ の生えたトウモロコシを食べなくても生きて行けるようになって欲しいと願っています。  空腹は怖いですね。暴飲暴食も困りますね。 参考文献 1) 水重知子ら、炭酸水による溶解療法が有効であった柿胃石の 2 例、日本消化器内視鏡学 会雑誌、56,3340-3346,2014 2) 厚生労働省:食中毒統計作成要領の改正について、食中毒事件票、平成31年3月29日 https://www.mhlw.go.jp/web/t_img?img=1418032 3) WHO: Food Safety, 2019年6月4日、 https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/food-safety
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