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  第9話「見える清潔、見えない清潔」

 

 北海道大学名誉教授・日本食品分析センター顧問 一色賢司

一色先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

 

我々人間は,食塩や一部の食品添加物以外は,生物を食べています。生物は人間にとって不都合な成分を含んでいる場合もあり,病原菌や有害物質を媒介することもあります。食中毒の多くが微生物によって引き起こされています。食品を腐敗させる微生物もいます。未然に食中毒や腐敗を防止するためには,「敵(食中毒菌や腐敗菌)を知り,己(食べる人)を知る」ことが大切です。食中毒菌などの性質を知り,誰がどのように食べるのかを思いやりながら対策を立てましょう。

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図1および2のように食品取り扱い者に求められる行動規範の基本は,5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾(しっけ)と言われています。躾は(良い)習慣と言い換えられることもあります。ムリ・ムダ・ムラがなく、他人に迷惑をかけない自立し、自律できる食品取扱い者になることが求められます。5Sの内容は以下のようになります。

 

1)整理:要・不要を明確にし、不要物を処分する。

2)整頓:必要な物を、決まった場所に置き、必要な物がすぐに取り出せるようにする。

3)清掃:ゴミやほこりがないように掃除をする。

4)清潔:整理・整頓・清掃を徹底し、さらに洗浄や殺菌により食品取扱いに、ふさわしい環境を維持する。

5)躾(良い習慣):健康維持に努め、マナーを守り、職場のルールや規律も守り、他人に迷惑をかけない。

 

食品の衛生管理における「目に見える清潔」でも,この5Sが重要になります。食品工場では、洗浄・殺菌の重要性を強調し、5Sにこの2Sを加えて7Sを行動規範としている場合もありますが、この5Sの上に立ったさらなる衛生管理、すなわち「目に見えない清潔」を職場や家庭の中で維持することが必要です。すなわち,衛生管理では,「目に見える清潔」と「目に見えない清廉」を維持管理することになります。

「目に見える清潔」は比較的理解されやすいのですが,職場や家庭でそれを推持管理していくことが難しいのが実情です。一方,「目に見えない清潔」では、第1話でお話した「目には見えない」小さな微生物を対象として管理します。「目に見える清潔」では,作業前手洗いを継続的に実施することなどが求められますが,「目に見えない清潔」は,その実施された手洗い行為について,微生物学的に効果があるかどうかを評価することが必要です。例えば、手洗い方法が正しく実施されていたかどうかを「目に見えない指標」である生菌数やATP量などを測定し,評価し、対策を講じます。

「目に見えない清潔」としての微生物管理を効果的なものに変えていくためには微生物に関する基礎知識が必要です。微生物は,厳しい環境におかれても生きようと必死で努力します。その生き様は人間以上であると言えるでしょう。微生物は小さく、目には見えません。5Sでは、「見えない清潔」も意識することが重要です。

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病原性の強いO157やノロウイルス等の微生物の場合は、100個以下でも人間の口に入れば発病することが疫学調査から判明しています。「見えない清潔」は、見えない微生物対策も含めた食品を大切にする心がけが続かなければ、維持できません。人間は、目に見えないビタミンを食品とともに摂取する必要があります。どのような人が、どのような状態で食べるのか思いやる心(ビタミン愛)も、食品衛生管理には必要です。

5Sの徹底は、食品ロスの削減にも効果があります。我が国では、年間500~800万トンもの食品が廃棄されています。5Sが軽視されれば、食品ロスはさらに増えて行くと思われます。現在、地球では9人に1人が飢えに苦しんでいます。食品ロスを減らし、飢えに苦しむ人々の少しでも助けになるように5Sを徹底しましょう。科学的な根拠もなく、食品安全を持ち出して、「念のために捨てましよう」では次世代の食料を減らすことにもなってしまうと考えられます。

 

【参考文献】

(一財)食品産業センター、「HACCP基盤強化のための 衛生・品質管理実践マニュアル」(2014年版)http://www.shokusan.or.jp/haccp/guide/h25anual.html

 

FAO、世界の飢餓人口(2014年11月14日)

http://www.fao.or.jp/detail/article/1248.html

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