第2回 我が国における食品の品質衛生管理のすがた
2014.05.15
J・FSD㈱ 池亀公和
先進国の近年の食中毒事情はどの様になっているのかというと、食中毒が原因で亡くなった年間死亡者数ではアメリカでは約3,000人、イギリスでは約500人そしてオーストラリアでは約120人となっている。(表1)
ではわが国ではどうかと言うと、平均では毎年数名であり我が国の人口がイギリスの約倍であることを考えても我が国の食中毒死亡者の少ないのには驚かされる。
つまり、我が国は世界でもダントツに食品安全が保障されている国であると言えるのではないだろうか。我が国において、毎年500人ほどの人が食中毒で亡くなっていた時代は、戦後の混乱していた約10年間ぐらいであり、その後は急激に減少して今日に至っている。
このような食の安心安全が保障されている国において、さらに驚くことはISO22000の認証取得企業数が中国の桁違いの数字を除くと先進国ではトップであることだ。(Fig.1)
但し、我が国の食中毒事件数や死亡者数の状況は40年ほど前からほとんど変わらず、これらの認証スキームが整う前から上記のような食の安全安心が最も保証された国であったということである。
ところが、我が国ではさらにここ数年FSSC22000の認証取得も進んでおり、大手のメーカーやその取引メーカーなどが構築に前向きな取り組みを行っている。
既に食の安全と安心が非常に高いレベルにまで来ている我が国においては、このような認証取得によって、その安全と安心の効果というよりも維持できていることが大切であると考えるべきだろう。そのために認証の取得やその維持にばかり気を取られていると、その隙間を突かれて大きな事故が発生することは今までにも何件かの報告がある。
国際認証などを取得することは決して悪いことではないが、それが目的となってはとても我が国のレベルは維持できない。品質管理者として大切なことは、システムを構築した後はそのシステムに縛られず、絶えず現場の状況を観察し、その変化に対応していくことが大切である。システマチックばかりではなくアナログな阿吽の呼吸も時には重要なファクターとなる。食の安全安心国際認証が我が国へ入ってくる数十年前から我が国では世界でも群を抜いて食の安全安心が保証されていたことを考えると、いかにこれらのシステム以前にベースである普段の教育や意識が大切であるかがわかる。