第4回 我が国における食品の品質衛生管理のすがた
2014.07.15
J・FSD㈱ 池亀公和
「食品衛生」と言えば「温度管理」と言うほど私たちは日頃から食品の温度管理には敏感になってきた。食品スーパーへ行って食品を購入してくると真っ先に冷蔵庫にそれらを入れることが習慣になっており、一般消費者の中にはそのまま室温で放置した食品を食べては食中毒になってしまうと感じている人たちも多いのではないだろうか。
食品を冷やすという行為は第3回のコラムにも記したように、我が国でも古くからおこなわれていたが、これらの目的は新鮮な品質の維持ということであり、食品の保存が目的である。
食品の保存において大切なことは、品質を維持することであるため、結果的に微生物の増殖が抑制されることが大切となる。
では、微生物の増殖は何度ぐらいから可能なのかというと図にも示したように10℃以下でも充分増殖可能な微生物が存在していることがわかる。これら以外にも10℃以下で増殖できる食品になじみの細菌としてはグラム陰性菌のシュードモナス、アルカリゲネス、アシネトバクター、モラキセラ、フラボバクテリウム、 エンテロバクター、そしてグラム陽性菌としてミクロコッカス、コリネ型細菌、乳酸菌、放線菌などがある。
つまり、食品の多くが10℃保存ではそう長くは保存できないということになるが、ではどうして冷蔵温度といえば10℃以下となりそのような表記があるのかというとそれにはわけがあった。
昭和27年に厚生省食品衛生課長通知「折詰弁当の衛生保持について」が発行される。折詰とはそれだけでもお弁当をさすことがあるが、当時のお弁当は、折箱という厚経木を折り曲げて作られた木箱に入れられていることが多かったのでこのようなタイトルが付いたのだろう。この当時はおにぎりと言えば経木に包んでいたもので、今の若い方たちには想像すらできないかもしれない。
この「折詰弁当の衛生保持について」をもとに昭和54年厚生省環境衛生局食品衛生課長通知 として「弁当及びそうざいの衛生規範について」が発行され「折詰弁当の衛生保持について」は廃止された。つまり、この「弁当及びそうざいの衛生規範について」は終戦から7年たった昭和27年発行の「折詰弁当の衛生保持について」が基になって作られているのだが、その当時は氷の冷蔵庫の時代でり、冷蔵庫をあまり冷やすことが出来なかった。そこで、10℃以下という基準になったと当時その基準作りに関わった方から聞いている。
ちなみに、その当時の基準が衛生規範にそのまま残っているものとしては、照度がある。衛生規範では、作業台上全てで100ルクス以上ということであるが、これは当時は蛍光灯がなくほとんどが裸電球の時代であったためやはりいまの様には明るくできなかったということだ。
現在では食品を製造する工場などでは、一般的には500ルクス以上を目標としているようだが、コーデックス等の国際基準では540ルクスとしている。
そこで、この衛生規範にある冷蔵保管温度についてみると、10℃というのは決して微生物学的な観点から考えだされた数字ではなく、当時として出来るだけ冷やした状態が10℃であったということになる。
ただし、この昭和52年発行の衛生規範には10℃以下という記載に、冷蔵庫では5℃以下に保つことが望ましい。つまり出来るだけ5℃以下に設定することを求めている。ところがその後、平成9年に発行された「大量調理施設マニュアル」ではなぜか10℃以下だけの記載となっている。そのいきさつは不明だが、コーデックス等の国際基準では食品の冷蔵は4℃以下となっており、微生物の増殖を抑制することが品質の維持につながるとしたら、やはり4℃以下が守られることが重要であろう。