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第5回 我が国における食品の品質衛生管理のすがた

2014.08.15

J・FSD㈱ 池亀公和

池亀 公和先生の略歴

多くの食品を製造する食品メーカーやレストランなどにとっては、食の安全安心は非常に重要な課題となる。テレビなどの報道でも大きな食中毒が発生すると他人事ではない緊張感を食品衛生の担当者は覚えることであろう。

 このようなときにも、各メーカーやレストランなどの経営者あるいは食品衛生の担当者は、自社において食中毒が発生しないようにどのような対策を実施しているのかというと、手を良く洗いなさい・器具類を良く洗いなさい・冷蔵庫の温度を管理しなさい等など毎年同じ指導の繰り返しになっているのが現状ではないだろうか。

ike5-1.png 確かにこれらの事項は食品衛生には大変重要な事柄になり、まさに一般的衛生管理の中心的事項になる。しかしながら、一般的衛生管理事項においてもどれもが等しく大切かというと、その土地の風土や季節さらには食文化や食中毒パターン等によって重点項目が変わってくるはずである。

 我が国の近年の食中毒パターンは図1,2からもわかるように、ノロウイルスが約40%でカンピロバクターが約30%であり、毎年この2種類の原因物質によって約70%の食中毒が構成されている。

ike5-2.png つまり、この2種類の原因物質に対する対策がしっかりできれば、食中毒のリスクは70%抑制できるとも考えられる。もちろん70%をなくすことはなかなか難しいことではあるが、このポイントに重点を置くことは少なくとも食品衛生管理を担当するものとしては考えなくてはならないだろう。

 カンピロバクターの食中毒については、原因食品の多くが鶏肉であることから徹底した鶏肉などの原料からの二次汚染を防ぐことしか考えられない。しかし、原因施設の多くが厨房での二次汚染によることであるため、なかなかその作業を管理することが難しい。これを管理するには、鶏肉について取り扱うときの特別なルールと担当責任者を決めたうえでの作業とするぐらいの仕組みが必要になる。

 もちろん食材を良く加熱をすることは大切であるが、誰もがその食材と微生物に対する知識がないまま二次汚染防止対策を図ってもなかなかうまくいかないことがある。厨房での微生物による二次汚染の経路を明確にすることは大切なことであるが、微生物の知識が充分にある専門家による指導を受けることにより見えない経路が見えてくることもある。

 また、ノロウイルスに関して近年の感染パターンはそのほとんどが二次汚染によることが多いため、少なくとも二次汚染を徹底的に予防することになる。

ike5-3.jpg ではどの様な二次汚染が考えられるかというと、多くのケースがトイレからのヒトを介した製品への伝搬である。ここを断つためには、トイレという非常に汚染を受けている可能性のある施設からノロウイルスを外に出さないということを考えなれればならない。

 写真にもあるように、便器に座って用を足した後はすぐにその場で手を洗い、その後ズボンを上げるなどの手順に従えば、用便後の汚染を外に出さないで済むことが考えられる。

これはすでに学校給食の従業員施設では多く採用されているが、レストランや食品工場などでも考えられる手段ではないだろうか。

その他トイレからノロウイルスを外に出さない工夫はまだまだある。

 このように我が国の近年の食中毒パターンを良く理解してから重点的な管理手段を考え指導することは食品衛生管理を効率的にすることとなる。食品衛生管理者は、近年の食中毒パターンについても分析しておくことが大切だ。