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第128話 食物アレルギー対策について

2024.11.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

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 食品を食べると、身体が過剰に免疫反応を起こす現象は食物アレルギーと呼ばれています。表1のように、命を失う悲しい事態に至る場合もあります。食物アレルギーは、ある特定の食べ物を食べたり、触れたりした後にアレルギー反応があらわれる疾患です。特定の食べ物を食べただけでは症状は起きずに、特定の食べ物を食べたあとに運動をすると症状があらわれる方もいます。食物依存性運動誘発食物アレルギーと呼ばれています。ある特定の果物や野菜などを食べると口周囲の発赤や口腔内の腫れ、のどの痛みや違和感などが生じる方もいます。口腔アレルギー症候群と呼ばれています。わが国のみならず世界中の多くの人々を苦しめている食物アレルギーへの理解と、フードチェーン全体の予防的な対策が必要です。

1)食物アレルギーの状況

 食物アレルギーの発症事故報告が、表2のように報道されています。表面化せずに治療を受けている例も多いと推察されます。

食物アレルギーの発症は、表1のように命を奪われる悲しい結果をもたらす場合もあります。悲しい事故を起こさないように、予防に努めましょう。給食施設のみならず家庭を含むあらゆる場面に、効率化や経費節減の波が押し寄せています。食品衛生の基本を忘れずに、安全第一を貫いていただきたいと願っています。

表2の5月30日の米粉パンの例などは、関係者のプロ意識の向上と食品表示のさらなる改善が求められます。包装表面に「米粉パン」と大きく書いてあっても、裏面の原材料欄には小麦粉が記入されている場合もあるようです。使用する前にも、しっかりと確認を取って食物アレルギー対策に取り組んでいただきたいと願っています。

6月25日のビワによるアレルギーの発症は、「口腔アレルギー症候群」に一致するものであろうと思われます。果物や野菜を食べたときに口の中に違和感が生じたり、のどや目がかゆくなったりする人が、増えているようです。

食品安全委員会は、食物アレルギーに関するファクトシートを作成し、公表しています。参照して、食物アレルギー対策に取り組んでいただきたいと思います。

 表3のように製品回収・リコール事例も報告されています。大量の食品が廃棄されています。食品衛生や食品の表示制度を理解していない大人もいます。まして幼い子供さんだけでは食物アレルギーを理解し、予防対策を取ることは困難です。フードチェーンの全員で、予防対策への取り組くみが必要です。

2)食品表示法について

 あらかじめ箱や袋で包装された加工食品や、カン・ビン詰めされた加工食品は、食品表示法により、表4のように8品目のアレルギー表示が義務づけられています。表4の下段の20品目は、表示することが推奨されています。消費者庁は2025年度中に、カシューナッツを特定原材料に移行させるために公定検査法の確立を急いでいます。

 生鮮食品や店頭で量り売りされる食品、その場で包装される食品、注文してつくられる弁当などでは表示が義務化されていないので注意する必要があります。

飲食店での食事も、アレルゲンの表示は義務化されていません。心配に応じて、お店に確認する必要があります。「卵」と表示されていても魚卵、爬虫類卵、昆虫卵は対象外で、「小麦」と表示されていても大麦、ライ麦、はと麦などは対象外であり、「乳」と表示されていても山羊乳などは対象外です。「えび」と表示されていてもしゃこ類、おきあみ類などは対象外となるなど、注意が必要です。昆虫食でも、アレルゲン性の確認が必要です。

表5は、消費者庁が公表している食品表示法に基づくアレルゲン関係の自主回収の届出の様子です。フードチェーンの信頼を確保するためには、国民全員の食物アレルギーへの理解と基本となる法律の遵守が必要です。また、万一の事態に備えたトレサビリティの整備と製品回収・リコールの予行演習が大事です。

3)前向きに食物アレルギー対策を

 科学的な対策が、食物アレルギーには必要です。ローマ時代からの「ある人の食べ物は他人の毒」という文言で、多様な人間の感受性が認識されてきました。食物アレルギーの感受性は変動します。年齢とともに、アレルゲンに寛容となり、発症しなくなる場合もあります。その一方で、加齢とともに食物アレルギーを発症する場合もあります。

食物アレルギー対策にも、科学的根拠が求められています。医療関係者だけでも、食物アレルギー対策は困難です。本人、ご家族、国民全員、特にフードチェーンに関係する方々の日々の努力が必要です。食物アレルギー対策のために公益財団法人も設立されています。みんなで食物アレルギー対策にも、取り組んで行きましょう。

参考文献:

1)食品安全委員会:ファクトシートの作成について

・アレルゲンを含む食品(総論)

https://www.fsc.go.jp/foodsafetyinfo_map/allergen.data/factsheets_Allergy_General.pdf

・アレルゲンを含む食品(牛乳)

https://www.fsc.go.jp/foodsafetyinfo_map/allergen.data/factsheets_Allergy_General.pdf

・アレルゲンを含む食品(小麦)

https://www.fsc.go.jp/foodsafetyinfo_map/allergen.data/factsheets_Allergy_Wheat.pdf

2)(一社)食品安全検定協会:食物アレルギー、食品安全検定テキスト中級、第3版、p.165 (2022)

3)藤田医科大学、消費者庁:食物アレルギーひやりはっと事例集 2022年度版

https://www.fujita-hu.ac.jp/general-allergy-center/hiyarihatto.html

4)(公財)ニッポンハム食の未来財団: 食物アレルギー

https://www.miraizaidan.or.jp/allergy/about.html

5)日本アレルギー学会、厚生労働省:アレルギーポータル

6)文部科学省: 学校給食における食物アレルギー対応指針

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/03/26/1355518_1.pdf

7)東京都: 食品アレルゲン管理ガイドブック

https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/files/k_shokuhin/eakon/f3ce2314e08ff07575677322e7381e52.pdf