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第44話 ヒスタミン食中毒対策

2017.11.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

 「鯖の生き腐れ」いう言葉があります。見た目は新鮮なのですが、食べると蕁麻疹が出たり、気分が悪くなったりすることがあります。1970年代になって、わが国では家庭でも冷蔵庫が使われるようになり、全国的にコールドチェーンが整備されました。そのころまではサバを代表とする魚によるアレルギー様食中毒は、しばしば起こっていました。図1に示しましたように、水産物を衛生的に取扱い、特に低温管理を徹底すれば、ヒスタミン食中毒は制御することができます。今回はヒスタミンによる食中毒とその対策について、お話しします。

 

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1) 国際的なヒスタミン食中毒対策

 我が国では、食品のヒスタミン濃度に関する規制値は設定されていませんが、表1のように欧米では水産物に対する規制が行われています。Codex国際食品規格委員会も、表1の規制を勧告しています。古来より、水産物を沢山食べてきた我が国では、ヒスタミン食中毒に対して、欧米よりも怖さを感じにくいのではないかと思われます。欧米ではヒスタミンの毒性を恐れて、より厳しい規制が行われています。ヒスタミンが検出されると品質に問題があり、食品としての価値はないと判断する目安とされています。米国FDAは、しばしば水産物取扱者に、規制値を上回るヒスタミンが検出されたとして警告を発しています。EUでも、規制値を上回るヒスタミンが検出されたとして処分が行われ、「食品および飼料に関する緊急警告システム(RASFF)」で注意喚起が行われています。

 

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2) ヒスタミンによる食中毒の発生

ヒスタミン食中毒は、アレルギー様の食中毒です。食物アレルギーとは、発症機構が異なります。食物アレルギーとは、「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」です。ヒスタミンが蓄積されていない食品を食べたことにより、免疫応答が起こり、健康被害が発生した場合は食物アレルギーと診断されます。ヒスタミン食中毒は、ヒスタミンが高濃度に蓄積された食品、特に魚類及びその加工品を食べることにより発症します。

ヒスタミン食中毒は、ヒスタミンを過量摂食した場合発症します。ヒスタミンを多く含む食品を摂取した場合、通常、食後数分~30 分位で顔面、特に口の周りや耳たぶが紅潮し、頭痛、じんま疹、発熱などの症状を呈しますが、たいてい 6~10 時間で回復します。 重症になることは少なく、抗ヒスタミン剤の投与により速やかに治癒します。一般的には、食品 100g 当たりのヒスタミン量が 100mg 以上の場合に発症するとされていますが、実際には摂取量が問題で あり、食中毒事例から発症者のヒスタミン摂取量を計算した例では、大人一人当たり 22~320mg と 報告されています。FAO/WHOの専門家会合による報告書では、ヒスタミンの無毒性量(NOAEL)を50mgとしており、1回の原因食品(例;魚)の喫食量250gとした場合、一回の食事で健康被害を起こさないと考えられる食品中のヒスタミン濃度は200mg/kgと算出されています。この値は食品の国際規格であるコーデックスの魚類やその加工品中の衛生上の規格とされています。また、適切な温度管理をされている魚類加工品ではヒスタミン濃度は15mg/kg未満とも報告されています。

食品中に含まれるアミノ酸の一種ヒスチジンにヒスタミン産生菌(Morganella morganii)の酵素が作用し、図1のようにヒスタミンが生成されます。ヒスチジンが多く含まれるマグロなどの水産物を常温に放置する等の不適切な管理をすることで、ヒスタミン産生菌が増殖し、ヒスタミンが蓄積されて行きます。ヒスタミンは熱に安定であり、また調理加工工程で除去できないため、一度生成されると食中毒を防ぐことはできません。

ヒスタミン食中毒の原因となり易い食品は、ヒスチジンを多く含むマグロ、カジキ、カツオ、サバ、イワシ、サンマ、ブリ、アジなどの赤身魚及びその加工品です。

 

3) 集団食中毒発生例

 現在では、加工品を含めて水産物の衛生管理は厳しく行われています。ヒスタミン食中毒の発生例は少なくなっていますが、小学校との給食で、時折、発生しています。表2に札幌の小学校での発生例を示します。原因食品としてのマグロのゴマフライを食べた512人中217人が何らかの症状を示しました。

 

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 表3のように食べ残し等のマグロフライからヒスタミンが検出されています。ヒスタミンは、フライ等の調理加熱では、分解されません。モルガン菌などのヒスタミン産生菌が関与してヒスタミンが産生されます。本件も、フライにされる前にマグロにヒスタミンが産生されていたと推定されています。

 

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図2のように、冷凍マグロとしてインドネシアから20トン輸入されています。食中毒が起きた小学校で24kgが使われています。残りの99.9%、19トン余りは、ヒスタミン中毒を起こすことなく食べられてしまっていました。ヒスタミン産生菌による汚染と増殖は、水揚げ後から始まります。札幌の小学校でフライにされた24kgのマグロは、どこかで不衛生な取扱いを受けたと推定されます。

 

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4) ヒスタミン食中毒の予防と対策

ヒスタミンは一度生成されると、除去したり、調理時の加熱で分解することはできません。したがって、ヒスタミン産生菌の混入・付着や増殖、さらに酵素反応を抑制してヒスタミンを生成させないことが大切です。水産物の水揚げから、消費者による喫食までの一貫した衛生管理、特に低温管理が必要です。衛生管理の要点は、以下のとおりです。

①魚を生のまま保存する場合は、すみやかに冷蔵、冷凍する。

②解凍や加工においては、魚の低温管理を徹底する。

③鮮度が低下した魚は使用しない。

④信頼できる業者から原材料を仕入れるなど、適切な温度管理がされている原料を使用する。

 

【参考文献】

1)厚生労働省:ヒスタミンによる食中毒について、

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130677.html

2)EU:数ヵ国でのヒスタミン中毒事例の評価、2017年9月29日

https://www.efsa.europa.eu/en/supporting/pub/1301e

3) 水嶋ら:学校給食におけるヒスタミン食中毒事件の原因調査、札幌市衛研年報 37, 5255 (2010)、http://www.city.sapporo.jp/eiken/annual/no37/documents/37_06.pdf#search=%27%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E7%B5%A6%E9%A3%9F%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E3%83%92%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%E9%A3%9F%E4%B8%AD%E6%AF%92%E4%BA%8B%E4%BB%B6%E3%81%AE%E5%8E%9F%E5%9B%A0%E8%AA%BF%E6%9F%BB%27