home食品衛生コラム食品と微生物とビタミン愛第119話 「災害時の避難所での食中毒対策」

第119話 「災害時の避難所での食中毒対策」

2024.02.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

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2024年1月1日 16時10分ごろ、石川県能登地方・輪島の東北東30km付近を震源地とする地震が起こり、大きな被害が発生しました。図1は、石川県穴水町の避難所の様子です。大きな津波も押し寄せました。最大震度は、6強(石川県志賀町)で観測されました。震源の深さはごく浅く、マグニチュード7.6でした。犠牲になられた皆様のご冥福をお祈りするともに、被災された方々にお見舞い申し上げます。

2011年3月11日の東日本大震災の時は、小生は東京出張中でした。寒さの中、避難所の小学校に泊めていただきました。感謝いたしております。

現在も、孤立した地区や避難所での困難な生活を送られている方もおられます。食中毒などの対策について整理してみました。新型コロナウイルスを含む感染症対策は、図2を参考にしてください。

1)災害時の避難所での食中毒について

 避難所などでも、食生活は中断することはできません。炊き出しや救援物資の支給は、災害発生時の食料確保で重要な役割を果たします。その一方で、災害発生時は衛生状態が悪化し易いことが心配されます。過去にも、炊き出しの食事等での食中毒事故が発生しています。避難所では平常時よりも、体力が落ち、免疫機能も弱くなっている場合があります。災害発生時は、安全・安心な食事の確保ができるよう、平常時以上の注意が必要です。

 過去食中毒事例の代表的なものとして、以下の3つの事例を紹介します。

① ウェルシュ菌食中毒

 炊き出しとして調理した、鶏肉煮込み料理が原因食でした。東日本大震災の避難所で提供した煮込み料理を食べた118名のうち、69名が下痢や腹痛の症状を訴えました。患者の便と煮込み料理からウェルシュ菌が検出されました。調理後常温で放置し、食べるまで時間を要したため菌が増え、食中毒を起こしてしまいました。

図3のようにウェルシュ菌は、耐熱性の胞子を作るため、加熱調理で栄養細胞が死滅しても胞子が残り、60℃よりも低い温度になると増殖を始めます。加熱後の迅速な冷却と低温保管が必要です。第81、90話も参考にしてください。

②黄色ブドウ球菌食中毒

 救援物資として支給されたおにぎりが原因食品でした。平成24年8月、大雨による土砂崩れのために孤立した京都で、救援物資として提供されおにぎりを食べた104名が下痢や腹痛の症状を訴えました。患者ふん便とおにぎり、従事者の手から黄色ブドウ球菌が検出されました。地元の製造所がおにぎりを製造しましたが、住民に配布されるまでの間に細菌が増殖しました。

図4のように、黄色ブドウ球菌はヒトの皮膚にもいます。ニキビや化膿した部位には大量の黄色ブドウ球菌がいることも、あります。耐熱性の毒素を作りますので、加熱食品でも注意が必要です。第102話も参考にしてください。

③ノロウイルスによる嘔吐・下痢症集団発生事例

 2011年3月11日に、東日本大震災が発生しました。福島県郡山市の避難所ビッグパレットふくしまで嘔吐、下痢症状を呈する避難者が増加し、 4月8日に郡山市保健所による調査が実施されました。その後、国立感染症研究所に調査支援が要請されました。4月7日以降に受診者の大幅な増加を認め、3名の便検体からノロウイルスが検出されたことから、本事例はノロウイルスによる嘔吐・下痢症集団発生事例と判断されました。

図5のように、ノロウイルスは感染力の強いウイルスです。経口感染のみならず、ヒトーヒト感染も起こします。避難所では、生活環境の清潔を保つことが困難である場合も多く、外部から侵入したノロウイルスが、避難所に蔓延してしまう可能性もあります。コロナウイルスとは異なり、エチルアルコールに抵抗性を持つため、より一層手洗いの徹底を心がける必要があります。第73、80話も参考にしてください。

2) 避難所での食品の取り扱いについて

①食品の受けとり・保管時には、以下の点に気を付けましょう

 食品を受け取る時は、食品の表示、色や においなどに異常がないか確認する。 受け入れの状況を記録(日時・数量等)する。汚染を受けない冷暗所に保管し、 床や地面への直置きは避ける。

②調理するときには、以下の点に気を付けましょう

  避難所での調理は、通常とは違い、限られた条件下で作業しなければなりません。手洗い設備があれば、しっかりと手を洗いましょう。手洗いができないときには、ウエットティシューやアルコールなどを活用して、手を清潔にしましょう。素手で食材を触ることは避けましょう。使い捨て手袋を利用しましょう。献立は、加熱をあまりしないサラダやあえ物を避け、 十分に加熱調理を行うもの (煮物、揚げ物、焼き物)にしましょう。加熱後に手を加えなくて済むように、 事前に一口大に切るなどの工夫をしましょう。

 ご飯は、おにぎりにはしないようにしましょう。 どうしてもおにぎりにする場合は、 素手では握らずに、使い捨て手袋を使用するか、 ラップに包んでから握りましょう。

③食品の搬入や配布を行うときには、以下の点に気を付けましょう

 弁当など、できあいの食品を配布する際は、 消費期限を確認し、一人一人に手渡ししましょう。保存が困難な食品については、保存方法や 消費期限などの注意事項を伝えて配布しましょう。 臭いや色など異常を感じたら、ただちに配布を中止しましよう。炊き出しの食品、ボランティア等が調理した食品は、 作成日時と提供日時を記録しましょう。

④食べるときには、以下の点に気を付けましょう

 受け取ったらすぐに食べるようにしましょう。手洗い設備があれば、しっかりと手を洗いましょう。手が洗えないときにも、アルコールなどでできるだけ清潔にしましょう。

異常(異味・異臭・変色など)を感じたら、食べないようにし、避難所の管理者に報告しましょう。弁当などは消費期限内であることを確認し、 消費期限が過ぎていたら、捨てましょう。食べ残した食品は、適切に判断し、捨てましょう。 捨てるときは周囲の衛生確保のため、分別し、 決められた場所に捨てましょう。

3)事前準備を

  災害に備えて一般家庭でも、避難所でも事前に用意しておきましょう。表1のようなものを準備し、災害時に取り出せるようにしておきましょう。

また、食物アレルギー対策も事前準備が大切です。避難所では、十分な食物アレルギー対応食品が入手できるとは限りません(第104話)。また、食物アレルギーを発症する体質であることを明示するなどの情報発信を行う必要があります。

 国民全員で、助け合って災害への対策をし、災害時にも理性を失わないようにしましょう。

参考文献:

1)福島県郡山市の避難所における嘔吐・下痢症集団発生事例(Vol. 32 p. S8-S9: 2011年別冊)

http://idsc.nih.go.jp/iasr/32/32s/mp32sa.html

2)岡本裕行:救援物資のおにぎりが原因の集団食中毒、日食微誌、35, 23-25,2018

3)避難所におけるおにぎりが原因となった黄色ブドウ球菌食中毒事例

https://www.niph.go.jp/h-crisis/archives/103459/ 熊本地震

4)板橋区:災害発生時の食中毒を防ぐために、

https://www.city.itabashi.tokyo.jp/kenko/eisei/shokuhin/1003827.html

5)農林水産省:避難所でできる食中毒予防対策について、2024年1月2日

https://www.maff.go.jp/j/syouan/saigai_syokutyuudoku.html