第107話 冷凍食品と物流2024年問題
2023.02.01
2023/2/1 update
冷凍食品の消費が増え、図1のように、自分でレンジを使って調理して食べるレストランも登場しているそうです。新型コロナウイルス感染症対策として、自分で食事を準備することが多くなってきたことも影響しているようです。冷凍食品の供給に従事する方々の努力で、より美味しく、手軽にいただけるようになりました。今回は、冷凍食品の物流や安全性確保について、考察してみたいと思います。
1) 最近の冷凍食品の消費の様子
総務省統計局の家計調査の結果では、冷凍調理食品の支出金額が、図2のように増えているそうです。図1の冷凍調理食品には、おかず関連の冷凍調理食品のみになっており、主食関連や素材は含まれていません。以前から冷凍調理食品の消費量は増えていましたが、さらに増えています。特に単身世帯の伸びが目立ちます。
以前は、冷凍食品を使うと、手抜きをしていると見られてしまうこともありあました。学校給食などに冷凍食品は、使用しないで欲しいと言われる方もおられました。今回の調査では、若い方のみならず、特に高齢世帯での購入が増えていたそうです。
冷凍処理は、食品の一次生産である農業や漁業にも導入されています。食品加工、保存、流通、小売りでも使われています。もちろん、飲食店や家庭でも使われています。
図3は、スーパーマーケットでの冷凍食品の売り上げの変化を示しています。出典は、図2と同じです。図3のスーパーマーケートの冷凍食品には、冷凍調理食品だけではなく、冷凍野菜や冷凍魚なども含まれています。コロナ禍以降売上が上昇し、現在も2020年や2021年と同水準で推移しています。
一般社団法人日本冷凍食品協会が、2022年2月に行った調査でも、冷凍食品の利用者が増えていたそうです。コロナ感染症の蔓延を機に冷凍食品の利用を始めた人は利用者の約1割であることや、男性の約3人に2人は冷凍食品を自分で調理していることなどが明らかになったそうです。
2) 物流2024年問題の影響は
2024年4月1日から、働き方改革関連法によって、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されます。冷凍食品などの運送トラックのドライバーは、長時間の労働になることが当然とされていました。
ネットショッピング(EC電子商取引)の普及拡大により、ドラバー不足に拍車がかかり、労働力不足、長時間労働が常態化していました。ドライバーの高齢化も進んでいました。
2024年4月からは、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が設定されます。ドライバーの労働環境は良くなりそうですが、物流が滞る可能性が高いと心配されています。ドライバー不足、業務時間の制限により、フードチェーンにも影響が出そうです。
農業や漁業から小売店や一般家庭までのトラックの利用に支障が出そうです。また、利用料金も高くなると心配されます。冷蔵や冷凍仕様のトラックだと、さらに利用が難しくなる可能性があります。
トラックドライバーが、長時間労働を強いられる原因としては、次のような実態が考えられます。
①荷物の届先や受取り先での、待ち時間が発生する、
②納品や受取りの指定時間等の条件が厳しい、
③積込みや荷卸しが手作業となる場合もあり、作業時間が長時間となる、
④荷主からのオーダーに合わせた配送計画が立てづらい、
⑤天候や地震等の影響を受ける、
⑥交通事故や道路工事の影響を受ける、他
冷凍食品の運送の場合は、車載冷凍庫の電源確保のため発電を続ける必要があり、トラックの燃料効率も悪くなります。届け先の冷凍倉庫の空きスペースも必要です。
働き方改革関連法により労働時間を削減する必要がありますが、食品としての安全性を確保することは第一優先条件です。
3) 冷凍食品用の温度管理インジケータについて
冷凍食品に、霜がついている場合などでは、温度が上昇していた可能性もあります。多くの場合には、温度が上昇しても再び冷却されると、外観だけでは異常を検知できません。解凍後や食べてから、品質の異常に気付くこともあります。
冷凍食品の温度管理を、簡単に目視で確認する手法の検討を行ったことがあります。その時の結果を図4に示しました。ビニールの小袋に入れたインジケータを冷凍食品に乗せ、温度を上昇させると色が変化し始めます。図4のように、赤キャベツ色素の赤色が消え、さらに温度が上昇すると、青色に変わります。
白い氷には、重曹(炭酸水素ナトリウム)が含まれています。温度上昇により、形が崩れて液体になってしまいます。この変化は、不可逆です。温度が下がっても、元に戻らずに変化したままで警告になります。図4のインジケータの作り方は、図5のとおりです。
この条件で作ったインジケータは、-18℃に保たれていると変化を起こしません。変化を起こす温度は、グリセリンの含有率で調整することが可能です。このインジケータは、安価な可食物でできており、使用後の廃棄も容易です。しかし、このインジケータは、大量生産が難しいようで、未だに実用化されていません。
図6のように、発表から十数年経った昨年(2022年)、冷凍食品の解凍警告用可食センサー開発の可能性が報告されました。我々が使った赤キャベツ色素が、使われていました。冷凍食品用のインジケータが実用化され、温度上昇による食性病害の発生や品質不良、食品ロスを未然に防止することが期待されます。
研究開始から実用化に至るまでには、図7のように、3つの難所があると言われています。難所を突破して実用化し、より一層安心して冷凍食品を食べられる日が来ることを期待したいと思います。常温流通食品よりも冷凍食品の方が、より慎重な流通を必要とします。全ての食品の流通で、「物流2024年問題」への対応が、手遅れにならないことを願っています。
参考文献:
1) 食未来研究室:年々需要が高まる冷凍食品2022年9月12日、
https://nsk-shokumirai.com/2022/08/17/frozen-food
2) 一般社団法人日本冷凍食品協会:“冷凍食品の利用状況”実態調査について、2022年4月14日、https://www.reishokukyo.or.jp/news-public/12352/
3) 福澤朋ら:冷凍食品の温度上昇を警告するインジケータの開発、日食化誌、16, 143-146(2009)
4) I.K. Ilic, et al.: Self-Powered Edible Defrosting Sensor, ACS Sensors, 7, 2995-3005(2022)