第108話　3Dフードプリンターも清潔に

2023.03.01

2023/3/1 update

　フードテックと呼ばれる新しい食品加工技術として、3Dプリンターが利用されるようになっています。図1は介護を必要とする、それぞれの人に合わせた食品が作れることを示した報告の一部です。

最新流行の便利な機械であっても、食品を取り扱う時には、衛生的な取り扱いを忘れるべきではありません。今回は、3DFP（食品用3Dプリンタ－）について考察してみましょう。

1)3DFP（食品用3Dプリンター）

　食品産業では、エクストルーダーを用いた食品加工が行われてきました。この機械は、粉体状またはペースト状の原料を混錬し、高温の状態で加熱、装置内のスクリューで加圧し、押し出すことによって成型、加工するものです。3DFPは、押し出し成型の部分を取り出し、印刷プリンターのような機能を持たせたものとも考えられます。図2は、食品専用の3DFPと、その機械を使って作られた食品です。この3DFPを使って、下記2)で述べる実験は行われています。

3DFPには、次のような長所があります。

①複雑な構造の食品を作れる、
②再現性が良い、
③個々の要求に応じられる、
④人手不足の解消になる、
⑤コストを削減できる。

3DFPの難点は、以下のような項目が考えられます。

①操作には知識と経験が必要、
②ペースト状か半液体状の材料が必要、
③加熱などの調理はできない、
④導入コストがまだ高い。

　3DFPの利用は、これから進み、機械としての改良も行われると思われます。メインナンスの問題も改善される必要があります。3DFPの押し出し用容器は、カプセル呼ばれていますが、使い捨てではありません。食器洗浄機を用いて洗浄について、実験が行なわれました。

2)　3DFPカプセルの洗浄実験

　米国Arkansas大学では、図3のカプセルの洗浄に関する実験が行われています。このカプセルは、図2の3DFP用のステンレス製です。カプセルに詰められた実験用食品は、①生理食塩水(PBS)、②混合物（③+④＋⑤）、③無塩バター、④蛋白質（コラーゲン）、⑤砂糖です。

食中毒菌による汚染を想定した実験用に選ばれた病原体は、ネズミチフス菌(Salmonella Typhimurium)とリステリア(Listeria monocytogenes)です。表1および2のように、両菌ともに環境に広く分布し、食品に汚染すると消滅させにくい性質があります。

3DFPカプセルの食中毒菌による汚染と洗浄に実験は、次にように行われました（図4）。

①食中毒菌を増菌培養し集菌後、生理食塩水で洗浄し、溶液を調製
②カプセルに充填用試料食品10gを投入
③カプセルに食中毒菌溶液100μlを投入し、30分間放置
④カプセルを洗浄
　A:通常機械洗浄：80分間、水温67.7℃（max)、洗剤使用
　B:急速機械洗浄：45分間、水温55.0℃（max)、洗剤使用
　C:手洗い洗浄：水道水（55.0℃、max)、洗剤とスポンジで1分間洗浄後、すすぎ
⑤洗浄後にカプセルをふき取り検査。

 　食器洗浄機は、家庭用を使用しています。洗浄モードは、①通常機械洗浄と②急速機械洗浄の2種類で実験しています。食器洗浄機を使わない③手洗いでの洗浄も実施されています。

図5は、実験結果を示しています。通常機械洗浄では問題はないようでした。急速機械洗浄や手洗いでは、洗浄後のカプセルに食中毒菌が残っている場合がありました。バター、蛋白質と砂糖を混合した場合はリステリアもネズミチフス菌も残り易い傾向があるようです。

　図6は、食器洗浄機内のカプセルの洗浄位置の違いによる洗浄効果を調べた結果です。食品試料には、混合物（無塩バター・蛋白質・砂糖）が用いられています。

通常機械洗浄では、洗浄位置の違いによる洗浄効果に差はありませんでした。急速機械洗浄では、洗浄位置の違いによって、洗浄効果が大きく異なっていました。

　これらの実験から、3DFPの使用においても基本的な衛生管理をおろそかにすると、食中毒や品質不良などの問題が発生する可能性があることが明らかになりました。

　洗浄殺菌は、ケースバイケースで確認をしながら実施して行く必要があります。原料や加工方法が変わった時は、要注意です。3DFPのカプセルには、水分活性の高い素材が充填されます。食中毒菌などへの食品衛生上の対策を再確認していただきたいと思います。

　事故を起こしてからの後始末よりも、予防が大事ですね。

文献：

1) 堀内ら：3Dフードプリンターによる介護食の造形および造形物評価、日本食品工学会誌、22,A12-16(2021)

2) A.N.Hamilton, K.E. Gibson: J. Food Protect., 86 (2023) 100030
https://doi.org/10.1016/j.jfp.2022.100030