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第129話 食品企業の食品安全テクノロジー導入

2024.12.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

 テクノロジーは私たちの日常生活に影響を与えており、食品の安全性確保も例外ではありません。食品安全の分野にも、さまざまなテクノロジーの導入が試みられてきました。Strategic Consulting Inc. を率いるBob Ferguson氏は、2024年3月に世界38か国の約200社の食品加工業者を対象に、どのような技術を導入し、それが日常業務にどのような影響を与えているかについて調査しました。その結果が図1(参考文献1-3) のように、報告されています。テクノロジーへの国際的な取り組み状況を、参考にして、さらなる食品安全分への貢献に努めていただきたいと願っています。

1)食品企業が採用した技術の調査結果

 図2は米国とカナダの調査結果です。食品企業として、最近の5~10年間に採用した技術を示しています。X線検査技術と金属探知技術が多く、記録のデジタル化や業務の自動化が続いていました。図2の結果は、食品の安全性確保ならびに異物混入などによるリコール・製品回収が影響を及ぼしていると考えられます。

 図3は、新しく導入した検査技術についての質問への回答結果です。新しい化学的/物理的検査技術の導入が最も多い回答でした。含まれる技術は多様で、UVスキャン、ポータブル分光法、工場内の化学テスト (原料の品質を含む) 用の機器、ブリックス、油脂の品質、それぞれの製品固有のテストなどが含まれていました。 

 米国とカナダの多くの企業が、ATP試験を採用していました。その迅速性から、環境モニタリングへの組み込みなど、現場での意思決定の参考に使うことが多くなっているようです。迅速タンパク質検査、迅速アレルゲン検査、迅速病原体指標スワブなども同様に、環境モニタリングなどにも活用されているようです。

 微生物検査の需要が 2 つの方向に分れているようです。1 つは、コストと自動化 (労働効率のため) に重点を置いた試験検査組織での使用を目的とする場合です。もう1つは、使いやすく、かつ十分な精度レベルを備え、日常の迅速な意思決定を可能にする食品工場内での使用を目的とした試験検査です。この場合には、下記の4点が要求されています。

  1. 工場レベルの意思決定に十分な精度
  2. リアルタイムで決定を下せるほどの速さ
  3. より広範囲に及ぶテストを実施するために、より多くのテストを実施できるほど高速である
  4. 意思決定を支援するために、テストと再テストを速やかに実施できる迅速性

 次の食品への切り替え前に、ラインの洗浄の達成度を速やかに確認するアレルゲン検出テストは、迅速検査の特性を象徴しています。そのラインで次に生産される製品とのアレルゲンの交差汚染の可能性を最小限にする必要があり、速やかに切り替え作業の完了を確認する必要があります。

 図4は、米国・カナダ以外の食品企業に、新しい分析試験技術の導入について質問をした場合の回答です。米国やカナダからの回答と同様の傾向が、その他の国からの回答に見られました。

 ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの技術を導入していました。アジアでは、国際的に通用する認証を受けたラボが少ないため、試験検査の外部委託が普及せず、自社工場内での分析が必要になっている可能性があります。EUの食品企業は、全ゲノム配列解析 (WGS) とメタゲノミクスの利用を増やしていると回答しています。

 図5は、全地域の食品企業に「現在の食品安全問題のうち、技術の改善によって最も恩恵を受けられるものは何でしょうか?」という質問への回答です。

 食品工場でのリスクを適切に管理するため、より優れた技術を求めている傾向が見られました。病原体制御、アレルゲン制御、一般的衛生管理が、全地域の食品企業によって重要とされていました。

 多くの回答で、病原体汚染の検査結果が早くなれば、より多くの潜在的病原体を適時に検出し、汚染された製品の流通を防ぐことができると報告されています。また、検査が速ければ、より多くのサンプルを採取するメリットが高まり、サンプリングと再サンプリングをより効率的に完了できます。結果判定が早くなれば、出荷されてしまったハイリスクの製品を、消費者に届く前に回収できる可能性も高くなります。

 迅速な検査とより優れた衛生管理の必要性は、特にアレルゲン管理では重要な関心事でした。調査の回答者は主に、生産ラインでの製品の切り替えをより効果的かつ迅速に行うために、工場の設備や表面からアレルゲン残留物を迅速に収集・分析する、より優れた迅速な方法を求めていました。

 検査の分析速度向上の必要性は、病原菌やアレルゲンに限定されませんでした。多くの加工業者は、衛生/清掃プログラムの一環として、交差汚染をより適切に管理する必要があるとも述べていました。より迅速でより適切な意思決定を可能にし、全体的な検査量の増加を促進するために、より高速な検査を望んでいると述べました。

 食品の安全性確保に最も大きな影響を与えた技術など、既存のテクノロジーに関する順位付けも求めました 。結果は、図6に示します。データベースが1 位にランク付けされたのは、デジタルでの記録の組み込みと、オンラインデータベースやその他のデータベースや電子ツールの使用が一般的になったことが一因だと思われます。

 トレーサビリティに関する以前の調査では、多くの企業が依然として紙やスプレッドシートを使用してサプライ ェーンを追跡していることが示されましたが、次第にデジタルレコードの使用が増えているようです。、

 2位と3位は、微生物学および化学検査の検出レベルの低下と、分析対象をより正確に、従来よりもはるかに低い濃度で検出できるようになったことです。また、より正確な検査を可能にするためのサンプリング技術とサンプル処理の改善についても言及されています。

2)フードチェーンの整備を

著者のBob Ferguson氏は、今回の調査結果を振り返って、以下のような感想を述べています。

 「食品安全の専門家が、安全な食品を生産するという基本的な責任を継続的に果たすための努力に引き続き注力している。彼らはまた、可能で実用的な場合はいつでも、その目標を推進するために新しいテクノロジーを導入し続けています。これは良いニュースに違いありません。」

 小生も、同氏の感想に同意していますが、さらに以下を追加して欲しいと思います。

「食品企業の努力だけで食品の安全性は確保できるものではありません。原材料の一次生産から食卓まで、全員で取り組まないと、フードチェーンの信頼性は揺らいでしまいます。地球環境の変化や、諸外国の政情の変化にも対応しうるフードチェーンの整備を忘れないようにしたいものです。」

参考文献:

1)Bob Ferguson: How is the Revolution in Technology Changing Food Safety ?, Food Safety Magazine, July 2, 2024, https://www.food-safety.com/articles/9589-how-is-the-revolution-in-technology-changing-food-safety

2)同上 Part2, August 8, 2024, https://www.food-safety.com/articles/9672-how-is-the-revolution-in-technology-changing-food-safetypart-2

3)同上 Part3, October 15, 2024

https://www.food-safety.com/articles/9825-how-is-the-revolution-in-technology-changing-food-safetypart-3