第27話 未殺菌牛乳のリスク
2016.06.01
図1は、北海道の乳牛と牛乳の写真です。写真の牛乳は,加熱殺菌済みです。「殺菌した牛乳でなければ飲んではいけない」と思っておられる方が多いのではないでしょうか。厚生労働省の承認を得て、北海道の一ヶ所で特別牛乳として未殺菌牛乳が販売されて、飲まれています。
未殺菌牛乳について論争が続いている国があります。牛乳を沢山飲む国,アメリカ合衆国です。50州が集まって米国はできあがっています。合州国と書いた方が分かり易いのではないのでしょうか。未殺菌牛乳の販売等を禁止する州もあれば、禁止しない州もあります。州を越えて流通すれば連邦食品医薬品庁FDAの担当となり、殺菌することを求められます。連邦疾病管理予防センターCDC は、国民の3%が未殺菌牛乳を飲んでいると推定し、FDAとともに殺菌して飲むように勧告しています。その理由は、牛乳は表1に示す腸管出血性大腸菌O157;H7のような病原体による汚染を受けやすく、水分も栄養も豊富であることから病原体の快適な棲家になりうるからです。
1)パスツールの低温殺菌
17世紀にパスツールが、牛乳も殺菌する必要があることを示すまでは、牛乳が病原体を媒介することも知られてはいませんでした(第8話参照)。媒介される病原体は、O157等の食中毒菌だけではありません。結核菌、リステリア、カンピロバクター、サルモネラ、ブルセラなどの感染症菌、Q熱リケッチャなども未殺菌牛乳によって媒介されることがあります。乳牛と人間両方が発症する場合は、人獣共通感染症(ズノーシス)と呼ばれています。米国では、2014年に未殺菌牛乳による食中毒がユタ州で発生し、99名の患者を出しています。そのうち1名は死亡しています。原因菌はカンピロバクターでした。同年にテネシー州でも、未殺菌牛乳により1名が死亡しています。原因菌は、リステリア モノサイトゲネスでした。テネシー州では、2013年にも未殺菌牛乳によるO157食中毒が発生しており、子供たちが発症しました。幸い死者は出ませんでしたが、深刻な腎臓障害に苦しむ子供たちがいました。殺菌した牛乳を飲んでいれば、このような事態は起こらなかったと考えられています。
2)CDCの報告
CDCは、牛乳が汚染される原因は下記のように多種多様であり、未殺菌牛乳は汚染される機会の多い食品であることを示しています。
①牛に由来する糞便汚染
②乳牛の乳房炎等の病気
③発症していない結核などの病原菌
④牛の皮膚にいる微生物
⑤牛舎や環境のほこりや搾乳装置
⑥そ族、昆虫、鳥等
⑦人間や衣類
図2はCDCが、2007年から2012年までの未殺菌牛乳による食中毒発生件数を州ごとの地図上に記入したものです。緑色で塗られた州は未殺菌牛乳の販売を認めており、オレンジ色で塗られた州は販売を禁止している州です。未殺菌牛乳による食中毒は緑色の州で多く発生しており、やはりハイリスクな食品だと思われます。ヨーロッパでも未殺菌牛乳はハイリスク食品とされていますが,完全に禁止することはできないようです。販売には特別の認可が必要とされています。
1) FDA: The Dangers of Raw Milk: Unpasteurized Milk Can Pose a Serious Health Risk (2016)
http://www.fda.gov/Food/ResourcesForYou/Consumers/ucm079516.htm
2) CDC: Raw milk-know the raw facts (2015)
http://www.cdc.gov/foodsafety/pdfs/raw-milk-infographic2-508c.pdf