第49話 我が国の平成29年の食中毒について
2018.04.01
厚生労働省薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒部会が3月12日に開催され、平成29年の食中毒の発生状況が報告されました。概要を表1に、とりまとめました。表1は、食品衛生法に基づく医師の食中毒報告件数を、地方自治体等が確認し、厚生労働省に報告したものの集計です。今回は、平成29年の我が国の食中毒を振り返ってみたいと思います。
1)平成29年の食中毒発生状況
平成29年食の中毒発生の事件数は前年比125件減の1,014件、患者数は前年比3,788件減の16,464人、死亡者数は同11人滅の3人でした(表1)。図1のように。ここ十数年間、事件数は1000件前後で推移しており、患者数はここ3年間減少し、平成29年は16,464人でした。月別発生状況では、事件数は9月が100件以上と最も多く、患者数は2月が2,500人と最多でした。件数の月別発生状は、冬場にノロ等のウイルスによる食中毒が大半を占め、夏場に細菌による事件数の割合が増加していました。病因物質別患者数の月別発生状況についても同様の傾向がみられました。
図2のように、病因物質別発生状況をみると、事件数ではカンピロバクター・ジェジュニ/コリが31.6%、アニサキスが22.7%、ノロウイルスが21.1%、でした。図3は、病因物質別食中毒事件数の年次変化です。病院におけるアニサキス症の診断技術の向上と普及により、アニサキスが原因となる腹痛等が多数報告されるようになりました。平成29年は、第2位となっています。図3には、アニサキスのデータが含まれていませんが表2に示したように、近年、アニサキスが原因であると診断される食中毒が増加しています。
カンピロバクターとノロウイルスは、従来通り、多くの食中毒事件を引き起こしています。図4のように、病因物質別の患者数ではノロウイルスが51.6%、カンピロバクター・ジェジュニ/コリが14.1%、ウエルシュ菌が7.4%でした。従前同様、ノロウイルスとカンピロバクターが食中毒発生の大きな割合を占めていました。図5は、病因物質別食中毒事件数の年次変化です。
ノロウイルスに関しては、食中毒患者数の約60%を占め、発生原因の約80%が調理従事者由来でした。昨年2月には、刻みノリを原因食品とするノロウイルス食中毒が発生しました。学校給食に汚染された刻みノリが使用されたため、多くの年少の患者を出し、社会問題となりました。改正された大量調理施設衛生管理マニュアルでは,調理従事者は毎日作業開始前に自らの健康状態を衛生管理者に報告し記録することが盛り込まれました。また、検便検査を10から3月までは、月に1回以上行うよう努力することとされました。
カンピロバクター食中毒については、飲食店で提供された生、または加熱不十分な鶏肉を原因とする事件が多く、仕入れた鶏肉には加熱と表示されていたのに、生または加熱不十分な鶏肉を提供し、食中毒を起した例が多いことが報告されています。厚生労働省は食鳥処理業者などに加熱用鶏肉であることを関係者に伝えることを要請しています。加熱用であることを知りながら生食される料理を提供するなど悪質な事案があれば、告発を行うなどの法的手段を含む対策も、厚生労働省は検討しています。
2)死者が発生した食中毒事件について
表3に死亡者を出してしまった平成29年の食中毒事例を示しました。ボツリヌス菌は、離乳食に加えられていた蜂蜜に由来する、いわゆる乳児ボツリヌス症を発症した事例です。子育てに必要な知識としてのボツリヌス対策の啓蒙・普及がさらに必要です。
イヌサフランにはコルヒチンという毒性物質が含まれています。山菜取り時に食べられるギョウジャニンニクンなどと間違えて採取され、食べてしまった事例です。
スーパーマーケットで販売されていたポテトサラダが原因食品と疑われた腸管出血大腸菌O157の食中毒事件が関東で発生しました。死亡した女児は、ポテトサラダを食べておらず、原因は同じ売り場の惣菜を食べたことによるO157の摂取と考えられています。O157汚染が広がっていたものと推定されています。さらに、11月の報告では、感染症法に基づく全国の病院からの報告では、既に昨年8月以前に50名もの患者さんから同じ遺伝子型のO157が、各地で検出されていたことが報告されました。
厚生労働省は、広域食中毒の未然防止のために、国や地方自治体、民間の連携による対策の強化を行うことを決定しています。O157などの微量感染を起こす病原体は、食料の一次生産者から消費者までのフードチェーンの全ての関係者の貢献が必要です。他者に責任を転嫁することよりも、自らの責任を果たし、微量感染を防ぐために、社会的な努力を続けることが尊重されるべきであると思われます。
食中毒の未然防止を含む食品衛生法の改正案が、3月13日に国会に提出されました。法的整備も大切ですが、国民一人一人が食中毒対策に関心を持ち、自ら実践することが大切です。国際的には、Food Safety Cultureという言葉で、皆で協力して食品安全をより良いものにしようとする機運が高まっています。食品安全とでも訳すべき言葉でしょうか。大切だと思います。
【参考文献】
1) 厚生労働省:薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒部会資料l2018年3月12日、 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000197221.html
2) L.Jespersen: Supply Chain and Food Safety Culture – Sector Leaders Sharing Their Challenges and Recommended Practices, Food Safety Magazine, February/March 2018
https://www.foodsafetymagazine.com/magazine-archive1/februarymarch-2018/supply-chain-and-food-safety-culture-sector-leaders-sharing-their-challenges-and-recommended-practices/