home食品衛生コラム食品と微生物とビタミン愛第55話 偽装マグロとヒスタミン食中毒

第55話 偽装マグロとヒスタミン食中毒

2018.10.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

 ここ数年、EU欧州連合では不自然なヒスタミン中毒が起こっていました(1)。

冷凍マグロが原因と推測される例が多いことから、EU諸国やユーロポール(欧州刑事警察機構)、インターポール(国際刑事警察機構)が内定を続けていました。2018年8月にスペインの水産業者が摘発され、45トンの冷凍マグロが押収されています(2)。

図1のように不法処理により、色をごまかし、さらに冷凍すると食品としての安全性の確保ができなくなります。技術は使い方次第で不幸をもたらし、性悪説による規制を招いてしまいます。第44話でもお話ししましたように、正々堂々とフードチェーンの信頼性を高め、ヒスタミン食中毒を最小化させて行きましょう。

 

ishiki551.jpg

 

1)マグロによるヒスタミン食中毒の増加

EUでは2013年に、牛肉へ馬肉が混入され、国境を越えた複雑な流通によりロンダリングされていたことが発覚し、大きな衝撃を与えました(3)。英国などでは、馬肉を食べる習慣がないこともあり、BSE事件の再来と捉える大きな反発もありました。

今回摘発された不法処理冷凍マグロに用いられた発色あるいは着色方法の詳細は公表されていませんが、EC欧州委員会は、図2のような不法行為が考えられると記者発表を行っています(2)。これまでに悪用された不法処理法には、①亜硝酸(植物由来を含む)、②一酸化炭素、③植物のビート由来の色素を使用したなどの、疑いがもたれています。

 

ishiki552.jpg

 

不法処理により色調を整え、冷凍した上で国際的かつ複雑な流通に紛れ込ませていたようです。EUで多発していたヒスタミン食中毒は、これらの不法処理冷凍マグロが原因と考えられてします。

図2には、マグロの時間経過と不法処理によるヒスタミンの蓄積による食中毒発生の懸念が示されています。衛生管理を行わずに、不法行為により見かけを取り繕うとヒスタミン食中毒や微生物による食中毒のみならず、有害物質による汚染を受ける可能性も高くなります。

冷凍技術の悪用による食中毒や健康被害も起こっています。1998年には、我が国でイクラのしょうゆ漬けによるO157が全国各地で発生しました。この製品は、一般生菌数が多過ぎるとして返品されたものを、不法にも凍結保存していたものでした4)。 2007年には、中国産冷凍餃子に毒物を混入させた事件が起きています5)。いずれも犯罪として逮捕され、有罪の判決を受けています。

 

2)ヒスタミン食中毒について

図3は、ヒスタミン産生菌の酵素によるヒスタミンの産生の様子と、缶詰の回収事例を示しています。マグロのヒスチジンを基質として、脱炭酸酵素が働きヒスタミンが生じます。衛生管理、特に低温管理が成功していれば、ヒスタミンの産生を遅らせることができます。その一方、ヒスタミンは耐熱性であるため一度ヒスタミンが産生されると、缶詰にされ高温加熱されてもヒスタミンは残ってしまいます。

 

ishiki553.jpg

 

図3の新聞記事に書かれているヒスタミン濃度基準50mg/kgは、米国の注意喚起のための品質管理基準です(表1)。我が国ではヒスタミンの濃度基準はありませんが、食品からヒスタミンが検出された場合は、有害物質含有食品として食品衛生法第6条違反の疑いをもたれることになります。

 

ishiki554.jpg

 

マグロやサバを代表とする赤身の魚によるヒスタミンが多いのですが、白身の魚でも、頻度は低いのですが発生することもあります6.7)。水産物も地球規模で流通し、食べられるようになりました。ヒスタミン対策にも国際的な理解と協力が必要になっています。ヒスタミン対策についても、国際的な合意が必要になっています。

魚醤については、Codexは400ppmを規制値として勧告しています。魚醤についてはヒスタミン分析のサンプリングが容易ですが、魚体や魚群からのサンプリングは困難です。Codexでも、サンプリングを含めた分析法の検討が続いていま8)。複数個体あるいは複数個所をサンプリングすべきではないかとの意見もあります。ヒスタミンを誘導体化してHPLCで分析を行う分析法が一般的ですが、水産物の取扱い現場では実施することは通常、不可能です。ヒスタミン分析の簡易迅速化が望まれています。

フードチェーンの信頼性はバトンタッチで成り立っています。不法手段で品質を偽装する業者が混ざってしまうと、フードチェーン全体が信頼を失います。表2のチェックリストを参考にして、前回お話した食品安全文化を育てていただきたいと願っています。

 

ishiki555.jpg

 

参考文献

1)EFSA, Assessment of the incidents of histamine intoxication in some EU countries, 2017年9月29日

https://www.efsa.europa.eu/en/supporting/pub/1301e

 

2)EU, Fight against food fraud: 45 tons of illegally treated tuna seized in Spain、2018年8月13日

http://ec.europa.eu/newsroom/sante/newsletter-specific-archive-issue.cfm?newsletter_service_id=327&newsletter_issue_id=10314&pdf=true&fullDate=&lang=default

 

3)駐日欧州連合代表部:妥協なき食の安全を目指すEUの挑戦、EU MAG,17,1-2, 2013年6月25日 http://eumag.jp/feature/b0613/

 

4)北海道:イクラ醤油漬の腸管出血性大腸菌O157汚染に関する調査、IASR,19(10),1998,

http://idsc.nih.go.jp/iasr/19/224/dj2242.html

 

5)厚生労働省:中国産冷凍餃子を原因とする 薬物中毒事案について、2008年7月、

https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/china-gyoza/dl/01.pdf#search=%27%E5%86%B7%E5%87%8D%E3%82%AE%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%82%B6%E4%BA%8B%E4%BB%B6%27

 

6)松雪耕一郎:白身魚のヒスタミン食中毒、食衛誌、55,J60,2014

 

7)早川亮太ら:日本産海産魚によるヒスタミン生成魚種および凍結保存によるヒスタミン生成の低減の検討、食衛誌、54,402-409,2013

 

8)豊福肇:CODEXにおける微生物管理の実績と課題、FFIジャーナル、223,224-230,2018