第25話 感染症と食中毒
2016.04.01
人から人へとうつっていく病気を感染症と総称しています。病気が「移る」と書かれることもありますが,ひらがなで「うつる」と書かれることが多いようです。
一昔前まで,感染症は伝染病と呼ばれていたように、適切な対策を取らないと短期間のうちに病気が広がり、多数の感染者や死者をも出す事態が起きる場合もあります。特に、致死率が高い感染症は厳重な対策をとる必要があります。必要に応じて患者の隔離も行われますが,むやみに患者を隔離することは人権侵害となることから、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法と省略)という法律に基づいて、適切な感染予防や発生後の対策が取られています。
1)感染症の広がり
感染症はどのようにして人にうつり,広がっていくのでしょうか。ノロウイルス感染症を考えてみましょう(表1)。
まず、病原微生物としてノロウイルスの存在が必要です。このウイルスは、保菌者と呼ばれる人の腸で増殖し,他の人にうつってゆきます。発症すると嘔吐や下痢を起こし,ノロウイルスを体外に排出します。保菌者であっても発症しない場合もあります。健康保菌者と呼ばれていますが,ノロウイルスを排出します。
排出されたノロウイルスは下痢や嘔吐物などと一緒に空中を漂います。近くに人がいると、これがその人の口や鼻に入り込むみ,腸に達した場合は増殖が始まります。水道の蛇口やドアの取手,あるいは食品を媒介にして人に感染して行く場合もあります。ノロウイルスに感染した人が,免疫ができていない場合は、発症してしまいます。感染した人は保菌者として人にノロウイルスをうつすようになります。このようにして感染が成立し、人から人へと連鎖して感染を広げてしまいます。
表1に米国の調査例を示しましたが、ノロウイルスの感染経路は多様です。食品由来のノロウイルス感染症は904例、非食品由来の感染症は2,590例でした。食品も感染経路の一つと考えるべきです。
2)感染症の分類
感染症法では表2および3のように,感染症を1類から5類までに分類しています。
近年、西アフリカで流行したエボラ出血熱は、最も危険なカテゴリーである1類に分類されています。1類感染症は感染力が強い上、致死率も高い,極めて危険性が高い感染症です。結核や重症急性呼吸器症候群(SARS)は2類感染症で、このカテゴリーには感染力が高いものの1類感染症よりは危険性が低いものが含まれています。1類感染症患者は原則入院、2類感染症患者は状況に応じて入院というように、強制的に入院させることが可能です。3類感染症は腸管出血性大腸菌感染症など食中毒疾患が中心で、3類感染症にかかった場合は調理業務などへの従事が制限されます。4類感染症は動物や物などを介して感染するもので、感染源となる生物の駆除や物品搬送の制限をかけることができます。5類感染症は特に制限をかける必要のない感染症ですが、国が発生動向を調査しその情報を公表することによって感染の拡大を防止する目的があります。ノロウイルス感染症は、5類の感染症胃腸炎に含まれます。
感染症の原因となるウイルスや細菌を食品が媒介した場合は,食中毒としても登録することから,診察した医師は食中毒としても保健所に届け出ることが義務付けられています。O157に代表される腸管出血性大腸菌による感染症は、表2のように第3類感染症として全数を報告する必要があります。
厚生労働省の感染症発生動向調査事業の統計では、毎年約4000人前後の感染者が医師から報告されています。一方、腸管出血性大腸菌食中毒として報告され、厚生労働省に報告され、登録されている患者数は、毎年300人程度と感染者数のほんの一部に過ぎません。正確に食中毒の発生状況を把握するためには、調査方法の改良が必要だと考えられます。
【参考文献】
1)北里,原,中村:ウイルス・細菌の図鑑,技術評論社(2016)
2)渡邉:感染症の世界的動向と対応,モダンメディア,61,313-323(2015)
3)A.J. Hall,et.al., Foodborne Norovirus Outbreaks — United States, 2009–2012,, MMWR, 63, 1-5 (2014)